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 狭い歩道で自転車とすれ違う。よけた私の手が、遠野くんの手にちょっとだけぶつかった。私は急いで手を引っ込める。始業式の日に、転んだ私に差し出してくれた手を思い出す。  だけど遠野くんのこの手に触れられるのは、美織さんだけだ。  だって遠野くんは、美織さんと付き合っているんだから。 「そういえば遠野、今日は美織先輩と一緒に帰らなくていいの?」  突然亜希ちゃんが振り向いてそう言った。シュシュのついたポニーテールがぴょこんっと跳ねる。今日のシュシュは亜希ちゃんの好きな黄色だ。 「あー、うん、いいんだ。今日は美織、用事があるから」 「用事ってなんだよ? 彼氏と会うより大事な用事か? 美織先輩にとって、お前はその程度の存在か?」 「うっせぇよ、圭太。だまれ」  遠野くんが駆け出して、岸本くんにとびかかる。頭をぐしゃぐしゃとかき回し、「やめろよ、遠野ー」なんて言われている。  私はそんな遠野くんたちを見ていた。雨上がりの街ではしゃぎ合うみんなの姿は、ちょっと私にはまぶしすぎた。  お目当てのお店は今日も行列ができていて、みんなで並んで順番を待つ。亜希ちゃんとおしゃべりしているのは楽しいけれど、ちっとも進まなくてちょっと疲れてしまった。  だけどそんなことは言えない。みんなの楽しそうな雰囲気、壊したくないし。我慢して立っていたら、やっと順番が回ってきて、なんとかタピオカミルクティーを手に入れることができた。 「おおー、これが噂のタピオカってやつかぁ」  岸本くんがやけに感動している。 「お前飲むの初めて?」 「は? 遠野初めてじゃねぇの?」 「俺、来たことあるもん、ここ。美織と一緒に」 「はー? お前それを先に言えよ!」 「あれ、言ってなかったっけ? 俺」  遠野くんがいたずらっぽく笑って、ストローを吸う。 「かーっ、やだやだ、リア充なヤツは。あっち行ってタピオカ食おうぜ。重森さんも」 「あ、うん」  岸本くんが近くの公園を指さすので、みんなでそこに向かって歩く。ストローを吸いながら歩いている遠野くんは、亜希ちゃんにもからかわれていた。
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