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公園のベンチに座って、ミルクティーを飲んだ。みんなは陸上部の先輩の話や、顧問の先生の話を楽しそうにしていた。私は亜希ちゃんの隣で、その話を聞いている。
「あんなに並ぶほどうまいかなぁ、これ」
突然話しかけてきたのは、遠野くんだった。
「たいして味しないし。何十分も並ぶ価値あると思う?」
いつの間にか遠野くんは私の隣に座っている。
えっと、この質問、私に聞いているんだよね?
「え、うん。おいしいと思う。私は」
「そっかなぁ。俺には全然わかんないけど」
遠野くんが空っぽになったカップを口から離し、私に向かって笑いかける。私はどうしたらいいのかわからなくて、カップを両手で握って膝を見下ろす。
遠野くん、もしかして気を使ってくれているのかな。私がみんなの話についていけないと思って。
でも遠野くんってけっこうマイペースな気もするから、ただの気まぐれで私に話しかけてくるだけなのかもしれない。
「美織……さんは……」
「え?」
遠野くんがこっちを向いたのがわかった。
「なんて言ってたの?」
「ああ、これ?」
遠野くんが持っていたカップを持ち上げる。
「そういえば『おいしい』って言ってたなぁ……あいつも」
あいつ……とか言っちゃうんだ。あの綺麗な先輩のこと。
ちらりと視線を上げて、隣を見る。遠野くんは目の高さに空のカップを持ち上げて、ゆらゆらと揺らしている。
遠野くんの柔らかそうな髪に、雨上がりの夕日が差してくる。カップを持つ手は大きくてちょっとごつごつしていて、私の知らない男の子の手だった。
今、遠野くんは何を考えているんだろう。
美織さんのことかな。それともお口に合わなかったタピオカのことかな。
そのあと公園の遊具で男の子たちがふざけて遊びだして、亜希ちゃんは「男子ってほんとガキだよねー」なんて言いながらも写真を撮ってからかったりして。そんなくだらないことをしているうちに、あたりがうっすらと暗くなってきた。
「え、重森さん、歩きだったの?」
そろそろ帰ろうかという話になり、家を聞かれて答えたら、男の子たちに驚かれた。聞けば他のみんなは、ここからバスか電車で帰るのだという。
「学校から反対方向に歩いて十五分くらいなの」
「じゃあここからだと……三十分?」
「砂羽、一人で大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。まだ明るいし。のんびり歩いて帰るから」
亜希ちゃんが心配そうな顔をしている。私はそんな亜希ちゃんの前で笑ってみせる。
「じゃあ気をつけてね。砂羽」
「うん。またね、亜希ちゃん」
そう言って手を振ったあと、こっちを見ている遠野くんと目が合った。
「また明日、学校で」
遠野くんが私に言った。
「また明日……学校で……」
私も同じセリフを繰り返したら、遠野くんはおかしそうに笑っていた。
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