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朝。
部屋の中に立つ僕を見て起きたばかりの父は激昂した。
「どこまで反抗的な奴だ!」
平手を頬に喰らう。
「俺は神なんだ。お前を導いてやってるんだ。なのにいつまで経っても平和にならない! お前が反抗的で恨みがましいから争いが無くならない!」
そんなの僕のせいじゃない、と考えながらごめんなさい、と呟く。
……そして、ナイフを脂肪のついた肉体に突き刺した。
「……世界の平和なんて知ったことか」
誰が苦しもうが悲しもうが関係ない。僕に平和がもたらされないのが何より不公平で理不尽だ。
耳鳴りがする。ごうごうと僕の中で怒りが駆け巡っている。けたたましく、警報のようにごうごうと、がんがんと世界を揺らめかすほどの音。
刃を振り上げ、何度も降り下ろす。
ぐぅ、という声が聞こえて怒りが増した。ごうごうと――うねりを上げて鳴っているのは何なんだ!
体の内ばかりではない。外からも激しい音がする。窓の外に稲光が走るのを捉えながら、父に馬乗りになって顔を滅茶苦茶に殴りつけた。
爆音がする。雷鳴が轟く。ぎゃあぎゃあと何かの生き物が叫んで、世界ががたがたと崩れていく。
*
……静かだな……と汚く赤黒い体を踏みつけ、凪いだ心で部屋を見渡す。
テレビはもう何の映像も流していない。真っ暗になった画面に飛び散った血がべっとりとついていた。
視線を小窓に映して、そこに広がる光景に「……あ」と声が出た。
住宅が立ち並んでいたはずの町が一変していた。
暗く荒れた海原が激しい波を立てて広がっていた。吹き荒れる竜巻が海と天を繋ぎ、水飛沫が上がっている。
ところどころに崖のように聳え立つのはビルの残骸だろうか、爆撃で壊されたような形跡もある――。
強い風に木端が鋭い速さで窓に飛んできたが、直前の空間で爆ぜて消えた。
……この小部屋が特別なものであるかのように。
*
神は息子に重い天秤を持たせ、その天秤に乗せたものを零さぬようにと言いつけた。
傾けぬようあることが使命なのだと。
神の息子は使命を軽んじ、荷を持たされることに不満を抱いて神を殺した。
取り落とされた天秤から零れた災厄は地上を苛み、命はことごとく嵐に飲まれる。
*
……聞いたこともないはずの神話の一編。
「……そんな」
血濡れた両手をだらりと垂れる。
――汚れることのない白々とした小箱が動く。そのように思った。
ごご、ごご、と重く軋むように揺れながら、僕のいる小部屋は雲の切れ間へーー天空と運ばれていく。
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