《第二章 義兄弟の契り桃園の誓い》

1/3
前へ
/53ページ
次へ

《第二章 義兄弟の契り桃園の誓い》

劉仁は、初めての戦を経験しようとしていた。南蛮軍は、劉仁、関望、張緯にそれぞれ五十騎ずつ与え、孟優を指揮官として山に入った。 「兄者!ワクワクしてくるな!」 「張緯、勝手な行動は、慎めよ!」  関望に叱責される張緯であったが、初陣は楽しそうであった。平地に出ると、山賊が奇襲をかけてきたため、武力で対抗できる張緯が先にぶつかった。敵の頭目董旻は、張緯のあまりの強さに逃げだし、配下の山賊は降伏した。 「山賊たちよ、我々は、略奪や暴虐をしなければ特に危害を加えることはしない。また、我々のために働くのならば、義勇軍として取り立てよう」 と、劉仁は懐柔策を取ると、山賊は皆涙ながらに投降した。張緯は強く諫めたが、劉仁は頑なに受け入れることを勧めた。仁義は良いが、あまり優しくすれば、秩序が乱れる。関望が見るに、劉仁には、やや甘さが残っているように見えた。  山賊討伐に一緒に出ていた孟優は、三人の息の合った戦いぶりに感服し、この者たちは大義をなすに違いないと感じた。 「劉仁の人の心を動かす言葉、器の大きさを感じる態度。これは、大物になるかもしれないな…」 その頃、南蛮の集落で張紹は一人思いに耽っていた。国は滅び、小さな郡に落ち延びた若き英雄たちが、表舞台に立つことはあるのか。そして、真の主となるのか、また、主を選び、国を背負って剣を取るに足りる世であるのかと哀れんだ。晋は蜀を平定した後、戦は少なくなっている。となれば、街は活気が戻ってくるに違いない。呉も平定となれば、中華は早く安定するだろう。だが、国の頂点となる者は、いったいどうなのか。張紹も、心が安ずることがない日々であった。 司馬一族が実権を握った後、晋国は、司馬炎の信頼を一手に受けた司空の座に就いた青洲刺史・征東大将軍衛瓘が牛耳っていた。晋と呉は国境付近で互いの出方を窺う冷戦状態となり、晋の羊祜、呉の陸抗との小競り合いと睨み合いが続いていた。元の蜀の領地である益州は、司馬一族の皇室と晋の将軍が占拠し、西側の辺境部族の匈奴・羌・氐等に圧力をかけようとしていた。南蛮国付近にも、晋の兵は進んできており、戦は避けられない状況になった。 南蛮王猛虬、張紹、関索を始め、重臣たちは晋国軍の侵略を警戒していたが、衛瓘の命により、近々、周辺部族の一掃を企てているという伝令が広がっていた。密偵によれば、永安から江州に陣を張っており、蜀・南蛮連合軍で立ち向かうこととなった。 晋は、陳騫、石苞を大将軍とし五万の兵で国境まで攻めてきた。将軍王濬、王浚など晋の名だたる武将が攻めてきた。連合軍は、合わせて一万に満たない。齢七十歳になろうとしている張紹は、 「儂は、年も取り戦力とならないだろう、他異民族に声をかけ、呼応しようと持ちかけてくるわい」 「張紹殿、この関索は七十になってもまだ現役を貫き、前線に立とうと思うぞ!」 猛虬は、カカと笑い、 「御二方の気概、素晴らしいものであります。 この、猛虬、全てをかけて、戦おうぞ!」 南蛮連合軍の初陣、皆、心は一つであった。 冬が明けた初春、南蛮領国境沿いで晋軍と連合軍の戦いは開かれた。猛虬王本陣を本体とし、中央先陣に関索、左に猛虬の弟猛優将軍率いる南蛮軍、右に関統、関望、劉仁等の部隊で陣取った。諸葛果は、猛虬の軍師として本体に待機した。中央に晋国の大司馬石苞が中央に待機しており、中央より先陣を切って攻め上がってきたのは車騎将軍陳騫であった。 石苞は、南蛮軍の兵力が少なく、統率も劣っていると考え、正面から白兵戦を敷き向かってくる。 「蜀の属国、南蛮軍の残党め!今、降伏すれば、命だけは助けてやる。匹夫猛虬、観念して出てこい!」 手始めに二万の兵で攻め込み、陳騫は挑発してくるが、猛虬は全く相手にせず諸葛果に戦法を任せる。諸葛果は、陳騫部隊の布陣に何一つ警戒するものが無いと見て、かなりこちら側を侮っていると感じた。 「猛虬様、相手はかなりこちらの力を低く見ている模様です。中央で受ける前に、弓兵の矢の雨を降らし、そして、機動力のある蜀軍の騎馬兵が回り込んで後ろから叩きます」 「万夫の南蛮兵を舐めるなよ、陳騫。こてんぱんに叩きつけてやる」 南蛮軍の弓兵の熟練度も高く、関索の部隊に届く前に晋国は大多数の兵を失った。石苞は、敵を侮ったと思い、追って王浚の部隊を送り込んだ。関索部隊と陳騫・王浚の部隊が入り乱れた。兵で勝る晋軍が初めは圧していたが、南蛮兵一人ひとりの力が強く、均衡を保ちつづけた。 「今だ!両翼部隊、後ろを叩く!」 諸葛果の指揮で、南蛮軍両軍が回り込むように迂回し、後ろから晋国軍を攻めたて、大打撃を与えた。石苞は、全軍に晋軍命令を下し、王濬はじめ、二万の追撃を加えた。王浚は、必死の戦いの中、将軍関索を見つけ出し、襲いかかった。 「我こそは王沈の子王浚なり、そこの老いぼれ!この大刀で、斬り崩してくれるっ!」 関索が大長刀を構え、迎え撃つ。関統がそれを見て、青龍偃月刀を構え補佐に行こうとする。数号合わせるが、関索も強く、老将でも負けていない。関統が合流すると、王浚は、敵わじと思い退却した。全兵士数で上回る晋軍であったが、左右から挟まれた形となり、徐々に壊滅状態になっていった。陳騫が退路を開き、本陣まで戻ろうとするところで、追って来た関索、右正面から劉仁が退路を遮るように攻めた。 「若造!蹴散らしてくれるわっ!」 勢いにのって陳騫が劉仁へ向かってくる。劉仁は実戦で本物の軍人の敵将と刃を交わすのは初めてであった。劉家相伝の双龍剣を両手に、陳騫の大刀に応戦した。 「陳騫!我が名は、劉仁。皇帝を蔑ろにした賊軍の将め、この剣を受けるがいい!」 劉仁の剣は、素早く、陳騫が大刀で受けるが避けるので精一杯であった。横から、関索の攻撃も降りかかり、紙一重で交わすと、味方陣へと駆けて行った。 陳騫が危ないと見るや、王濬が援軍として追って来た。関望、張緯の若き二人が、応戦する。 「我らは、関望と張緯。若いとみて侮るな!」 王濬は、二人の攻撃に全く歯が立たず、退却を余儀なくされた。 「なぜ、南蛮の軍がこんなにも強いのだ…あの若い連中、いったい誰か。見たことが無い…」 王濬は、たじろぎながらも駿馬の速さで振り切った。石苞は戦況を見て、劣勢であることを知り、態勢を整えるため全軍を引かせた。 退却の際、諸葛果が数百の弩弓兵と投石器を伏兵させており、始め五万の兵は、半分に減るほど打撃を与えた。 およそ、三日ほどの小競り合いがあったが、南蛮連合軍の勝利でおよそ一万の兵で、五万の精鋭を退けたのであった。 「やったぜ!俺たちの勝利だ」 「張緯の力は、ほんとに伝説の張飛に匹敵するな」 「関望、やっぱり、稽古をしていてよかったよ、この剣が役に立った気がする、ありがとう」  三人は、まとまりながら、互いの勝利をねぎらい城に帰った。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加