《第四章 五胡と漢》

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《第四章 五胡と漢》

「まさか、ここで父上に再開するとは…」 「わが父とも同志であった。張緯、運命とは、儚いもの。望みを継ぐのです」  諸葛質は、張緯の肩を支え慰めた。張遵の死により、悲しみに暮れた一同であったが、小月氏を保護したその大業を讃えた。小月氏の族長と祭祀たちが一堂に礼拝にきて、張遵を弔い、劉仁に敬服した。 「助けていただき、ありがとうございます。 我々月氏は、西方の国と中華の国交で、商業で生活を営み、星による占い、火神を祭る民族です。我々は、あなた方に輝く龍の星を見、そして五つの星を束ねる恒星であると見えました」 「易学ですね、月氏は、星を見る民族では、有数の見識を持っていますから」  諸葛質が、月氏の血を引く者としても、優秀であり月氏の王になる風貌だと褒め讃えた。 「月氏族長、我らは今後どうしたら良いのか、占ってもらえぬか」  王濬が、話したところ、 「無数の星に、輝く星が五つ、先ほど話した星の事です。そのうち、二つの星には接触している」 「五つの星は、五つの部族ですね」  諸葛果が口を開いた。そこに居る者、皆が中華に影響を及ぼせるだろう異民族部を頭によぎる。 「これからも、味方や敵となり見合うことになるでしょう。敵として会ったとしても、必ず、『運命』の導きには逆らえませぬ、劉仁殿の仲間となるはず」  郭蘭が、 「私には、武勇も才も無いが、その事を語る役目は、私がやるべきだ」  と、会話に割って入った。郭蘭が語りだしたのは、二六三年の蜀の滅亡の時であった。  老将廖化と孫の廖詩などの親族一行は、成都城内で、今、綿竹が落とされようとしている頃、皇帝劉禅や郤正、譙周らと共に蜀漢の危機を話し合っていた。まだ、今後、魏に攻め入られ降伏するようなときは、我々もどうなるかわからず、蜀国建国で活躍した名将の末裔たちは、必ずや抹殺されるだろう。彼らだけでも、各地に分散させ、時を見計らい漢の大義が立つ時に、招集をするように。 「廖化殿は、なぜ、異民族の五部族を選んだか、それは、月氏族に星の動向を見せた上で、華北に力を及ぼせる民族の国だということを判断したからだ。五虎将と、特に文武に長けた将軍は異民族へ、そして蜀の四相である諸葛亮、費緯、蒋琬、董允の政治や知略に優れた者は晋の中枢に隠れ、ある人物が、一手に匿い指導している」  関望は、廖化将軍の一族について不思議な感情を抱いた。 「廖一族は、どうしてこのような役割をしていたのだろうか…」 「廖将軍は、関羽将軍の手下だったころから、一軍の大将を補佐する副将として、あらゆる武将に仕えた。実を言うと、廖化殿の力量が、彼ら将軍の力を全力で出し切れるよう補佐する、脇役の天才だった。そして、密偵、交渉、降伏勧告、捕虜、退却の殿とあらゆる場面で彼らを救ってきたのも、彼だ」  郭蘭が、廖化の実績を述べ、それを聞いた張緯は、うなずきながら、 「廖化殿は、すごい奴だったんだな!見直したぜ!」  と、大きな声で言うと、 「お前のような、身勝手で、力任せに突撃する武将もいるからな」 関望が言うと、皆、大笑いした。劉仁は、 「まぁ、そんな、張緯のような、なりふり構わず突入する将もいなければ、戦えないからな」  と、少し持ち上げた。張緯は、むっとした顔がすぐに、誇らしげな笑いに変わった。  諸葛果が、今後の話を続けた。 「北の空に、北斗七星という七つの星があります。これは、我らを支持する者がいる民を指しています。五胡とそれ以外未だ交わったことの無い国、もしや遠くにある国…北極星が漢民。中華は一強の時は、北極星は輝き、北斗七星は光を弱める。七星が強ければ、七星が協力し守れば安定、混乱の時には波乱となり、泥沼の戦場となるでしょう」 「つまり…五胡の安定が中華の安定、中華の波乱が五胡の乱世でもあると」 「そうです。我々は、差し当たり、氐と羌の二部族の最強と言われる部族と接し、共にしている。これは、今後においても、私達が、運命を左右するといっても過言ではありません」  劉仁は、固唾を呑み、諸葛果の話を聞いた。自分の双肩にかかる重みに耐えられなくなりそうで、ヨロめいた。馬謹が、肩を支え、 「大丈夫です、大丈夫、みんながいますよ」  馬謹が、いつになく頼もしく見え、周胤が、笑い、 「面白れぇじゃねーか。この天下、牛耳ってやれよ、劉仁よ!儂は、この両腕、おめぇに託すぜ」 「フハハハ!俺もだ!」  孟優と、斉万年、姚民なども同調し、劉仁の手を取り合った。ここで、一気に、劉仁軍は、士気が上がっていた。 「あとは、羯と匈奴、鮮卑の中に、我が服臣となる者がいるはずなのだが…」  劉仁が、ボヤくと、諸葛質が、 「焦ることはありません、運命とは、向こうからやってくるものでもありますゆえ」  と、そう助言した。  その後、王濬を中心に、周胤と孟優、関統等の重臣たちが、羯に組み込まれている漢の兵について議論していた。 「鮮卑禿髪部は、鮮卑の中でも最強の部族と言っても過言ではない。故、羯と手を組み攻めてきたというのは甚だ遺憾だな」 「そして、あの漢の者たちは、今まで見たことがない。そして、どうも我が軍かそれとも、晋の軍に恨みを抱いているようだ」 「そうだが、『袁』と名乗る武将が、蜀や呉にいた覚えがない…」   郭蘭が、おもむろに口を開き、群雄割拠の時代の話に触れた。 「かつて、黄巾族が暴れまわり、宦官が皇帝を傀儡とした時代、皇帝の重臣は、『袁家』が三公といって、司徒・司空・太尉という役職に就いた一門がいたのです」  王濬もそのことを知る様子であったが、黙ったまま聴いた。 「魏の丞相曹操が台頭していた時、袁紹と袁術がいましたが、特に袁紹の力は強大でした。 その後、魏によりその領土は征服されて、その末裔は途絶えたのかどうか…」  周胤が、その話に口をはさんだ。 「袁紹の子袁尚は、公孫康の一族に助けを求めたが、逆に首を切られ曹操に献上されたため、血脈は途絶えたと聞いたが」 「実は、三男袁尚ではなく、次男袁煕の子は、その昔の北方民族である、烏桓に身を寄せて生きたとの噂もある…」  王濬が、昔から伝わる話を思い出した。袁家が生き残り、魏に対する恨みをそのまま晋に向けているとしたら、やや筋違いになる。魏は、滅亡し新たな時代が始まっているのだから。 「とにかく、明日も敵は攻めてくる。城を守るぞ!」  劉仁は皆に伝え、城主李栄のもてなしを受け、早めに休んだ。周胤と諸葛質、諸葛果、蒲華、王濬は、密偵を放ち、敵の攻撃の裏をかくため作戦を練ることとした。安厘は、足の速さが普通の人の倍、距離も長く走れるため、密偵の役目を与えられた。その代わりに、諸葛質と諸葛果の星を見る易学に興味があるようで、それを教えて欲しいと言った。 「安厘殿、本を読み勉強なさっていると、果はなかなか星を読む筋が良いと話していますよ」 「オオ、アリガトウ。 ズット、肉体労働ダケダッタカラ、タノシイヨ!」  安厘も、その個性が、戦力の一つとされ仲間として馴染んでいった。  周胤が、軍略の軍師として話し始めた。 「広大な草原地帯で、隠れるところがあまりない土地だが、うまく地形を使い、後ろを叩く」  周胤の計に、皆、縦に首を振った。異議はなく、周胤への信頼が厚いことを指していた。周胤の信頼があるわけには、軍略を巡らせるときには、斉万年や馬謹などの若者に、教えながら育成というものも兼ねて行っているところにもあった。 「さすが、周都督…」  諸葛質も、心の中で感服していた。自分にはできない、人との関わり方に、少し悔しさもあった。  
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