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Battle 1
駅前を行き交う人々を見ながら、わたしは溜め息を吐いた。
今は仕事着じゃないし、メイクもプライベート用だから、そうそう目立ってはいないだろう。
……なんて、何を芸能人みたいなこと言ってんだか。
思わず脳内でセルフツッコミしてしまい、わたしは誰にも気付かれないように苦笑した。
わたしの名前は鬼柳薫子。
年齢は30歳。独身。彼氏もいない。
一見しなくても冴えないわたしだが、実はもう一つの名前と姿がある。
鬼柳薫子…またの名を『魔刻姫シュワルツローゼ』。
世界征服を狙う悪の組織『シャドウアーク』の幹部だ。
所属はシズオカ県ヌマヅ支部。生まれも育ちも、このヌマヅ市。
高校出てすぐ就職したから、勤続年数は12年ちょい。今の年齢で幹部まで行けたから、同期と比べてまあまあ出世した方だと思う。
尤も、同期の娘達はみんな寿退社しちゃったから解らないけども。
職場環境は悪くない…と思う。
社会保障も完備してるし、有給もボーナスもあるし、お給料もそこそこいい。
少なくとも、わたしみたいなお一人様が食いっぱぐれないぐらいには充実している。
まあ、悪の組織なんで、専用のメイクとかコスチュームとか着なきゃいけないんだけどね。
仕事は主に世界を狙ったり、敵対する光の使者と戦ったり…。
こう言うと物騒だけど、うちの組織と光の使者達との間で幾つもの取り決めがあって、どちらも犠牲を出さないように協定が結ばれている。
ずっと、ずーーっと昔は『富士山爆弾作戦』とか、『熱海空母化計画』とかやったらしいけど、最近は駄目らしく、専ら広場か公園で許可取って対決している。
成果は一進一退って感じ。
何万年か経ったら統計取って、どっちが勝ったか決めるらしい。
気の遠くなる程先の話だから、わたしには関係ないけどね。
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