微熱と零度(1)

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 結婚式の数週間前ーーー  唐突に携帯の着信音が鳴った。携帯の画面には電話をかけた相手の名前が書いてある。  その書かれていた名前に何だか懐かしく感じた。高林卓也という文字がちゃんと目に入る。  大学時代から買い替えないままの携帯。卓也も同じように買い替えていないのだろう、と思った。  携帯の連絡先リストには大学時代の友達達を残した状態である。  久し振りの卓也から電話が来るものだから、何事かと仕事が終わった青葉は、颯爽と会社を出る。 「お疲れ様で〜す」 「おー、お疲れさん」  スタスタと早足をしながら、上司や同僚と挨拶を軽く交わす。チラチラと何度も携帯の画面が気になった。自分の車の前まで辿り着き、ポケットの中にある鍵で開ける。何とか携帯の着信が切れる前に自分の車に入った。 「も、もしもし?」  早足で息が荒いのを隠すように腕で定期的に口を押えた。 「お、出た出た。久しぶり」 「どうしたの? いきなり掛けてきて」  大学時代以来の卓也は、青葉が想像をしていたよりも声色は明るい。大学を卒業後にしてから早二年の月日が経った。  それくらい青葉と卓也は会っていないし電話もしていないのだ。  社会人である筈なのに卓也の声で学生時代を思い出し懐かしく感じる。  もう青葉達は社会人二年目なんだと忘れるくらいには。
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