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SCENE 1 張り込み中
「ただ今戻りました」
そう言いながら、月岡夏美が運転席横のウインドウをノックする。
「おっ。じゃあ、ちょっと休憩させてもらうんで、よろしく」
ドアを開け、外に出る鷹西惣一郎。彼女からコンビニのビニール袋を受け取った。サンドイッチやおにぎりが入っている。
組んで張り込み中だった。だいぶ長い時間何も食べていないので、空腹だ。
お茶のペットボトルだけ手にし、夏美が運転席に乗り込んでいく。その姿に、行き交っている人々のうち、かなりの者が視線を送っていた。特に男性が……。
無理もない。
神奈川県警で「捜査一課の可憐な花」と異名がつけられるほどの容姿だ。雑誌社から、グラビアのモデルになってほしい、という依頼も来る。
だが、華奢で小柄、そして可愛らしい見た目からは想像もつかないが、夏美は優秀な刑事だ。いや、優秀すぎるというのか……。
強い正義感に基づいて時に破天荒な行動をとり、凶悪犯罪者にも敢然と立ちむかう。あらゆる武道に精通していて、特に居合いと剣道は達人級。これまで何人を病院送りにしたことか……。
そのギャップから「可愛さの無駄遣い」とも言われはじめている。
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