SCENE 1 張り込み中

2/2
前へ
/297ページ
次へ
 鷹西は、路上に立ち、しばらく彼女の横顔を眺めていた。  彼は同じ県警捜査一課強行犯係徳田班に所属していて、夏美のすぐ上の先輩にあたる。  先日まで、徳田班は所轄に立ちあげられた捜査本部で活動していたので、2人ともその署の刑事とペアを組んでいた。  だから、2人きりになるのは久しぶりだ。  仕事なんだ、と自分を戒めながら、浮ついた気持ちになりそうなのを抑える鷹西。  やっぱり可愛いんだよなぁ、悔しいけど……。  ふと、彼女を抱きしめたときのことを思い出す。  あれは、どさくさ紛れだったからなぁ……。  「どうかしましたか?」  いつまでも外に立っている鷹西を、ウインドウを下げ運転席から見上げる夏美。  「い、いや、ずっと座っていたんで、ちょっと身体を伸ばそうか、と思って……」   彼女から視線をそらし、誤魔化すように背伸びをする。  「ふうん……」怪訝そうな顔をする夏美。「目立っちゃいますよ」  「そ、そうだな。はは……」肩を竦めると、慌てて後部座席に乗り込んだ。「ああ、腹へったぁ」   わざとらしく言って、さっそくおにぎりを頬張る。  バックミラー越しに、クスッと笑う夏美の顔が見えた。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

169人が本棚に入れています
本棚に追加