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SCENE 1 張り込み中②
長い一日だなぁ……。
夏美はふう、とため息をつく。
路上駐車した捜査車両の運転席から、道路を挟んだ向こう側に建つ小さな雑居ビルを見ていた。
ふと、その前を通り過ぎる2人に目を奪われる。
たぶん親子だろう。その片方、二十代後半くらいの女性は、とてもきれいだった。夏美より少し背が高く、スレンダーな体型。ファッション系雑誌のモデルと言われても納得するだろう。
だが……。
彼女の表情は暗く、俯きながら歩く姿からは重い何かを背負っているかのような、悲壮な雰囲気を漂わせている。それは、夏美がたまに相手をする、犯罪被害者から受ける印象と似ていた。
何かあったのかな……?
付き添うように隣を歩く女性は、五十代半ばくらいだろうか。上品だが、娘と思われる女性を見る目は、不安と哀れみで揺れている。
心配になった。しかし、今は張り込み中だ。声をかけるわけにはいかない。それに、余計なお世話になってしまうこともあり得る。
「どうした?」
後部座席から鷹西が声をかけてくる。
「あ、いえ。特に……」視線を雑居ビルに戻す。「ここは、ハズレですかね?」
「うーん。まあ、こうやっているうちに、別の場所で身柄拘束してもらえてたら楽なんだがなぁ」
そう言って、缶コーヒーを飲む鷹西。
先日、横浜の裏町で殺人事件があった。被害者はチャイニーズ系マフィアの幹部だった。
どうやら、日本の半グレと言われるグループとの間でトラブルがあったらしい。
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