SCENE 1  張り込み中②

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 犯人はその裏町近くのバーの従業員、関口実、25歳。逃走し、現在どこかに潜伏中と思われた。  そして悪いことに、チャイニーズ系マフィアグループが、関口に報復するためにヒットマンを差し向けたという。  面子にかけて、関口が逮捕される前に探し出し、殺すことが狙いだ。  チャイニーズ系マフィアの裏情報網は多岐にわたっており、下手をすると本当に警察より先に関口を見つけかねない。  もし仮に彼らに関口殺害を許してしまった場合、警察の面目は丸つぶれだ。  危惧されるのはそれだけではない。チャイニーズ系マフィアのヒットマンは、なりふり構わない。目的を果たすためなら、何でもする。  殺害に成功した場合、闇ルートを使ってすぐに日本を発ち、中国本土か香港、台湾、あるいはその他の東南アジア諸国の裏社会へ隠れてしまうことができる。そうなるともう、逮捕は極めて難しくなる。  なので、犯行時に顔を見られようが、写真を撮られようが平気なのだ。それのみか、関口を襲う際に邪魔になるような人間には躊躇なく危害を加えるし、場合によっては簡単に殺すだろう。それが、たまたま居合わせたり通りかかった一般市民でも、だ。  非常に危険な状況だった。警察としては、一刻も早く関口の身柄を拘束したい。  半グレの連中を徹底的に叩き、関口が潜伏しそうな場所を数カ所、限定した。そのうちの一つが、あの雑居ビルにある一室だ。  そろそろ夕刻を迎えようとしているが、2人は朝から張り込んでいる。また、何かあった場合すぐに駆けつけられるよう、制服警官も増員し、辺りの警邏を強化してあった。  夏美としても、できれば早めにことがおさまってほしいと思う。騒動に発展する前に関口逮捕となった方が平和だ。  自分が荒事に関わるのも、できれば避けたい。時代錯誤なほど男性優位な警察組織内では、存在を認めさせるためにそれも必要だが、今、一緒にいる鷹西の前では、どこか控えめにしたいような気になってしまうのだ。
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