CASE1.中川櫂

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   もし。  もしも今日が、母が死んだ日なら。    本当に自分の願いが叶って、ドリームソーダを飲んだ場面まで、時を超えて戻ってくる事ができたのなら。   事件の概要は覚えている。母はストーカー被害に遭い、不運にも命を落としてしまった。刺された箇所が悪かったのだ、と警察官から聞いた。司法解剖の結果等は、正直何にも頭に入って来なかったので、その辺りの詳しい記憶は曖昧だ。  翌日、犯人は捕まった。罪を認めて自首をしてきたのは、スナックの馴染客だと聞いた。  母は勤め先のスナックへ行く途中、近道に通る公園――例の、櫂がゴミ箱を蹴飛ばしたあの公園――で、櫂がいるから再婚はできない、と何度も断ったにも関わらず、しつこく彼女をつけ回していた、店の常連客に刺されたのだ。  事件が起こったのは何時何分だった?  母がスナックへ出勤するのは――?    ふと窓の外を見た。街はもう暗い闇に包まれようとしていた。   「ごちそうさまでした!!」    あのドリームソーダを飲んだ日は確か、ポケットに五百円玉を入れていた筈だ。探すとすぐにあった。同じだ。時空を超えて、この時を辿っているのだろうか、どういう訳かは解らない。ただ、もう一度、この日をやり直す事ができるのだ。  櫂は急いで五百円玉をテーブルに叩きつけ、釣りはいいです、どうも、と会釈して、わき目もふらずに店を飛び出した。  全力で行けば、母が事件に巻き込まれる前に、止めに入れるかもしれない。    間に合ってくれ。どうか、間に合ってくれ!!     
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