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カフェ『アカシヤ』で、憩いのひと時を。
珈琲ソムリエの淹れる、薫り高い珈琲、マスターの手作りケーキと一緒にいかが。
このチラシをご持参の方、ご飲食代半額に致します。
チラシにはそのように書かれており、地図も右下に掲載されていた。
場所を見ると、京都盆地内にある町はずれ付近の緩やかな坂を上がりきった先にある、狐の神様を祀る小さな森の社の傍のようだった。確か小さな社には、狐の像が数体ある。
ああ、これか、と櫂は最近、校内でも噂になっている事を思い出した。噂好きの女子共が、デタラメを吹聴しているだけだと思って興味も示さなかったが、その噂のカフェだった。噂の内容は、そのカフェで特別メニューを頼むと、何やらひとつ、願い事が叶うらしい、と。
どうせ家に帰っても、スナックへ出勤前のババアの顔を見なくてはならず、顔を合わせるとまた小言を言われるに違いない。家に帰りたくなかったので、時間潰しに櫂はそのカフェまで行ってみる事にした。
トレーニングがてら、走ってその店まで行った。小走りで先程の公園から十五分ほど。思ったより遠かった。
冬の日が暮れるのは早い。まだ午後五時前だというのに、空がかなり赤に染まっていて、少し気味悪い位だった。
走ったので身体は温まっていた。店の前に到着したので木製の小さなドアを開けると、ちりんちりんと古風な鈴の音のようなものが頭上で響いた。
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