CASE1.中川櫂

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 正面がダークブラウンの木製のカウンター内に、目を見張る程に美しい銀髪の男性が立っていた。流れるように美しく、胸元くらいまである長い銀髪は、見事だ。涼し気な目元に、柔和な微笑みを浮かべるその姿は、女性客をあっと言う間に虜にしてしまいそうな、大人の魅力を感じた。ギャルソンのような恰好で真っ白のシャツに、黒の短いベスト、後はカウンターに隠れて良く見えなかった。  そのカウンターにぼんやり座っている――これまた美しい女性は、黒くややパーマのかかったロングヘアに、銀髪のマスターと同じ様に切れ長の涼し気な目元に、気怠さを滲ませていた。フリルの付いたブラウスにワインレッドの線の細いデザインタイ、膝丈でAラインの黒のワンピースに白いエプロンという姿だったが、大人の色気を十分に醸し出していた。  ウェイターの恰好をした青年は、二人と対照的で元気で明るい雰囲気をしていた。  赤茶色の柔らかそうな短髪に、瞳の色もよく似た色で大きく優しそうな瞳が特徴だった。  女性と同じ揃いのネクタイだが、男性用なのか太いカフェ独特のタイで、白のボタンのついた制服に、ネクタイと同じ色のワインレッドのエプロンをしていた。 「いらっしゃいませ。アカシヤへようこそ! チラシをご持参のお客様ですね。どうぞ、こちらへ」   ウェイターの青年が、会釈をしてくれた。  小ぢんまりとした店内はガランとしていて、誰もいなかった。それもそうか。午後五時過ぎに、町はずれのカフェにわざわざやって来て、談笑する暇人もいないだろう。  暇そうだけど、儲かっているのかな――どうでもいい事を考えながら、櫂は案内された席に座った。
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