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小さなライトブラウンの木製テーブルに、メニューが立てかけてあった。手に取って見ると、少し古い木製板に、和紙で出来たメニューが貼られていた。
・珈琲 500円
・手作りケーキ 500円
・ドリームソーダ 500円
メニューはたったこれだけだった。
喫茶店だから別に良いのだが、せめてもう少しドリンクメニューを増やしたほうがいいのではないだろうか、と櫂はお節介な事を思った。
外は木枯らしの吹く寒い冬のため、店内は適温に温められていた。モダンでアンティークな雰囲気の店内の右側に暖炉があり、薪がくべられていた。
櫂の案内された席は暖炉と反対側の窓際で、森と社が窓からよく見えた。完全に日が落ち、外の景色はもう薄暗い。
「ドリームソーダ、ひとつ下さい」
身体は温まっていたので、炭酸飲料と思しき飲み物を注文する事にした。ドリームソーダ等、変わったネーミングだ。
飲み物よりも、カレー等の軽食でもあれば夕飯代わりにしたかったが、そのようなものが無いので仕方なくの注文だった。ケーキを食べるという気分でも無かったので、これは注文を止めた。
「はーい。ドリームソーダね。少々お待ちをー」
確かに自分は十五歳で、目の前のウェイターからすれば年下の子供かもしれないが、かなり砕けて喋る男だと思った。普通接客業では、たとえ年下だろうが敬語を使うものでは無いのか?
縦社会、先輩・目上は絶対の世界で生きている櫂にとって、ウェイターの発言は少し頂けないので、やや不満に思った。
櫂はぼんやりとカウンターを眺めた。ウェイターがカウンターの端に座っていた黒髪パーマの女性にオーダーを通し、それを彼女がカウンター中央に立っている銀髪の男に再び伝える。
ハッキリ言って、この一連の動作は必要無いだろう。小さな店なのだから、マスターが一人でやればいいのに、とさえ思う。カウンター外で暇そうにしている二人のバイト代が、果たして支払えるのだろうか。
「このオーダーが見えるのね」
不意に彼女が、意味深な言葉を呟いた。このオーダーが見えるとは、一体どういう意味だろう。
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