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4.追跡開始
「ちょっと、どういうことよ!」
夏帆は携帯電話に噛みつかんばかりの勢いだった。それからしばらくはうん、うんとおとなしく聞いていたが、最後には「バカッ、そういう大事なことは、このあたしにすぐに報告しなさい!」と怒鳴って電話を切った。
「何?」
車のスピードを落として、葛木が尋ねた。女性の身元を調べるつもりで飛び出してきたものの、行く当てがまったくなく、「どうするんだよ?」と尋ねたら、「うるさいわね、あんたが運転しなさいよ!」と運転をなぜか代わったのだ。代わったからといって、行くべき場所が解らないのには変わりないのだったが。
「片山から。昨日の夜、和泉が襲われたんだって」
夏帆は口をへの字に曲げて、腕を組んだ。「それが、妙な話なのよね。昨日、一人でバーで飲んでたんだって。そしたら女の子から電話がかかってきて、セキグチマコトって人を探してほしいって頼まれたんだって」
「それって、何かやばい話なんじゃ」
「そう思ったらしいの、和泉も。でも、何より女の子からの頼みだから、そのセキグチマコトの行方を知っているらしい本間っていう弁護士に電話して問い合わせたら、帰り道に襲われたらしいわ。札入れはそのときに奪われたって」
「でもそれだけじゃ、因果関係は――」
「和泉の話だと、本間弁護士、セキグチマコトの名前を聞いてずいぶんと動揺してたらしいわよ。で、今朝は警察手帳と拳銃を持って、本間法律事務所に乗り込んで行ったみたい。片山も一緒に行けばよかったのに」
「行かなかったんだ?」
「そうでしょ!? でも、片山は片山で、本間弁護士の名前に聞き覚えがあったから、今、調べてるらしいわ。結果が出たらまた連絡するって」
葛木は赤信号を見て、ブレーキを踏む。
「あのさ、もしかして、セキグチマコトって、和泉が一緒にいた女性の名前なんじゃ」
「どういうことよ?」
「いや、女の子でも、マコトって名前があるなって――」
夏帆は「それよ!」と葛木の肩を叩いた。
「それよ。バーにかかってきた電話は、セキグチマコト本人からの電話だったのよ、きっと! 彼女は本間弁護士事務所に監禁されていたんだわ、そして、助けを求めて電話をした。それを、和泉が救い出した」
「でも、それじゃ俺に銃を向けた理由にならない。むしろ、助けたんならそのまま連れて逃げる必要ないでしょ」
「それには、何か理由があるのよ」
夏帆は赤色灯を車のルーフに乗せた。「本間法律事務所へ急ぎなさい!」
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