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「おやっ? 生きていましたか。動かないものなので、死んだものかと思ってましたが……いやはや」
少し離れた所から聞こえた男の声。霧で視界が悪かったせいか、その男の気配に今まで気付かず、背筋に悪寒が走る。
男は俺へとゆっくりと歩いて近付き、俺を見下すように数歩で立ち止まる。
恐怖を抱きながらも、足下から少しづつ彼を見上げる。
姿を隠すように膝丈から首元まである黒い外套(がいとう)は所々赤く滲(にじ)み、燃えた後なのか、服は所々焼け落ちているのに、その隙間から既に塞がった長年の火傷跡や傷跡が鍛え抜かれた筋肉を染めているだけだった。
見た目四十歳前後による圧か、それとも身長百八十センチメートルは優に超えている上に隙のない姿勢の良さのせいか、俺が上半身しか起こせてないことでより見上げる形となってることが少年としての体格差により恐怖を感じる。
特に後ろに背負った十字架を思わせるような細長くも頑丈そうな剣は、刃部分に固定具が巻かれていて安全なはずなのに、一瞬で死を招く死神の刃(やいば)を連想させる。
それらの恐怖を振り払うように、冷や汗を出しながらも声を出す。
「何者だ……」
俺の問いに男は一瞬目を丸くし、不適に笑う。
「やはり君もそうですか」
男の喋り方は丁寧だが、こちらに敬意などは感じさせず、一人納得してそう言うと、男にしては長い黒髪を揺らしながら淡々と説明する。
「私(わたし)は通りすがりの討伐者(とうばつしゃ)です。犯罪集団【マハーカーラ】を追って、ここアタルヴァ族の集落に来たのですが、居たのは倒れた君とーー」
そう言いながら右へと流す目線男につられて俺も目をやる……そこには置物のようにペタリと床に座り込んだ、俺と同じくらいの十代前半の少女が居た。
「記憶を無くし、呆然(ぼうぜん)としている彼女だけです」
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