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少女の服は俺の緑と比べると少し明るい黄緑色の和装を身に着けていて、着飾りがある辺り巫女のような服にも思える。
靴は俺と同じ民族靴らしい茶色いカンフーシューズを履いている。
怪我した様子も汚れた様子も無く、まるで人形のようにそこに居て、生気を感じない。
それでも彼女は確かに生きていると、俺の胸の辺りの何かがそう告げる。
それは彼女からも感じ取れる精力……体内活力を生み出す力【ドーシャ】だ。
彼女を認識して気付いた。俺の胸にあるこの温かみは、彼女のドーシャーーいやっ、俺たち一族ではそれを上回る【アタルヴァ】だ。
何故彼女のアタルヴァが俺の身にも宿(やど)るのか、彼女が誰なのか思い出せない。
だが、このアタルヴァが彼女は失ってはいけない存在だということは認識させる。
記憶が俺自身欠落していることに段々と自覚してきたことにより喪失感はあっても、彼女が生きているというだけで安心した。
俺はようやく立ち上がり、彼女の元へと歩いて近付き正面で止まる。
俺の少し伸びた前髪の濃い緑と比べると、肩まで伸びた彼女の長い髪は明るい黄緑色で美しい。
その細く力の無い体格に不安を感じつつも、俺が声をかければ再び動いてくれると確信しながら声をかける。
「俺はお前を知らない。だが俺はお前が大切なのは理解している。俺の身に宿るお前のアタルヴァがそう告げている。名を教えてくれ」
俺のその迷いの無い言葉が届いたのか、彼女は顔を上げて、呟(つぶや)くように返答する。
「ハルカーーハルカ・アタルヴァ……あなたは……レンーーレン・アタルヴァ……それ以外はーー何も……知らない。知りたくない」
「そうか。それで充分だ」
俺は知った。俺には彼女ーーハルカしか居ないのだと。
俺は誓った。彼女のためだけに生きると。それが俺の幸せであると。
それがこの喪失した記憶と、孤独さを埋める温かみなのだと。
ハルカに右手を伸ばす。その差し出された手の意味を理解するまで少し時間がかかった後、ハルカも右手を伸ばす。
ハルカの体温とアタルヴァをしっかりと感じ、彼女が存在してるという温かみを確かに実感する。
ほんの数秒、目を閉じて感じとったあと、右腕に力を入れて、彼女を立ち上がらせる。ようやくハルカは人としての動きをするようになった。
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