プロローグ-消失を埋める存在-

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 俺が居た集落からアディティの本部がある街へと来るまで日にちをまたいで深夜になっていた。  数回建ての建物が街中に並び、街の中央に広大な土地を使った何練もの建物が並んだ内の中央にアディティの本部があった。  本部の街号室で事務員の女性と入れ替わるようにブラフマー・クラウンは去った。  その女性アムレット・チャームによると、アディティの敷地にある建物のいくつかは宿泊できる場所も有るらしい。  着替えと軽食を部屋に用意してもらい、ハルカはその女性に任せて別れた。  感情があまり出ないハルカを他人に任せたくはないが、生活面は女性にしか頼れない部分があると聞き納得するしかなかった。  俺は淡々とした性格なのか、別れが済むと、シャワーを浴びて着替えてと早々と体を整える。    服は上下共に黒くて手首足首まで丈(たけ)がある長めの肌着だ。ここまで来るとき男女共これを着ている姿が何人か見えたあたり支給品らしい。  脱いで籠(かご)に入れた服に目をやる。 汗や血で汚れた民族衣装を見つめるも、なんの愛着も執着も思い出せない。  ただ、乾いた血の跡を見て、悪夢のような悲鳴や鈍い音の幻聴が脳裏によぎる。  何か……思い出してはいけない何かがあるはずなのに、その記憶を辿ろうとするとプツンと途中で切れてそのイメージは消える。  過去に目をそむけるように、ベッドの上に入り、寝具用のタオルケットを被る。  だが、そんな落ち着きを俺が得ているいいのか? 俺は安らぎを得ていい存在なのか?  そんな自問自答を繰り返しながら、不安から逃げるように眠りへと落ちた。  
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