君に音を

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「…くん、慶くん、慶くーん!いきなり回想に入らないでー!戻ってきてー!」 お弁当を食べながら、早くピアノ弾いて!と急かす先輩に苦笑して俺はピアノを弾きはじめた。 「やっぱり、慶くんのピアノ聞きながら食べるご飯は美味しいー!」 はじめて会った日からかれこれ半年が経ち、俺は二年生に進級した。 三年生になった先輩は、今でも毎日昼休みになると俺がいる音楽室へとやってくる。 そして、お昼ご飯を食べ終わると先輩は俺の弾くピアノで自分の音を奏でる。 「ずっと、一人だったんだ。でも、慶くんが一緒に歌ってくれるから、今は寂しくないよ!」 あの日聞いた先輩の音の寂しそうな理由を聞くと、先輩はそう言って笑った。 ねぇ先輩、あの日先輩が救ってくれたおかげで、今の俺は笑ってピアノが弾けるんです。 ずっとうまくピアノが弾けなくて傷だらけで苦しかった俺の音も、ボロボロで死にかけていた俺の心も、全部先輩が救ってくれたんです。 だから先輩のことも、俺が救えていたらいいな。 まだ寂しいなら、 俺がずっと隣でピアノを弾くから。 だから先輩は、ずっと隣で笑って音を奏でていてください。 …なんて、今はまだ言わないけど。 「ごちそうさまでしたー!ねぇねぇ慶くん、今日はあの曲がいい!」 いつか、いつかきっと伝えるから、それまでは俺のピアノで歌いながら待っていてください。
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