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仲林君の記憶にあった【カレ】は、綺麗な白金髪の髪すら隠して黒いマントで全身をすっぽりと覆っていた。
その上、辺りは暗闇だった。
そんな真夜中に蜜蜂は普通行動しない。
「……」
そう、普通であれば――――。
(でも、【カレ】の死因は蜂毒アレルギー……。蜂に刺されない限り、アナフィラキシーショックの状態になって死には至らない筈……。でも、何故、そんな真夜中に蜜蜂に刺されたの?しかも、全身、マントで覆われていたのに……。抑々、セラの遺体は綺麗で、蜂に刺された痕なんて見当たらなかったじゃない……)
……本当に?
本当にセラの遺体には傷一つ無かった?
(思い出せ、思い出せ、思い出すのよ――――っ!)
何度も何度も夢に見た、あの身が引き裂かれそうな程、辛く哀しい場面を必死に呼び覚ます。
【カレ】が棺の中に入り、7年ぶりに再会したあの場面を――――。
今にも動き出して話すのではないかと思う程、綺麗な状態だったが、実際に触れてみたら、信じられない程に冷たく生きている人間の温度では無かった。
(……もう……血が流れることも……ない、のね……)
そう。
私は、『もう血が流れる事は無いのね』と思ったのだ。
その時、私は【カレ】の――――。
「――――っ!!!」
全てが頭の中で繋がり、全身の血の気が一気に引いていく。
震えが止まらない。
私は慌てて側に置いてあったコートと鞄をひっつかんで立ち上がった。
何も言わずに突然立ち上がった私に対して、仲林君は驚いて「どうした?」という不可解な表情をしている。
彼を直視することが出来ず、視線を逸らし慌てて部屋から立ち去ろうとしたら、左手をぐっと掴まれた。
「……どこへ……行――――」
「か、帰る……」
「ちょ、ちょっと待て!突然、何があったんだ?中村さん!?」
ドアを引いて開けようとした途端、慌てて立ち上がった仲林君に背後からバンっと両腕で勢いよく扉を閉められてしまった。
ドアと彼の両腕の間に囲まれた状態になり、身動きが取れない。
「一体どうしたんだ?急に……」
背後から困惑した仲林君の声が聞こえる。
「……お、お願い……だから、帰らせて……。もうココには二度と来ないし、貴方とは今生では、もう二度と関わりを持たない……、から……」
「何を言って――――」
気付いてしまった新事実は、私を奈落の底へと突き落とすには十分だった。
「ごめんさい、ごめんなさい、本当にごめんなさいっ!!!貴方には何度謝っても謝り足りないけど……っ。お、お願いだから、許して――――っ!!!」
両手で泣きじゃくる顔を隠し、そう叫んだ私は、仲林君の両腕に囲まれた状態で、膝から崩れ落ちたのだった。
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