epilogue

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「視えない……」 不満げに言うと、昴君は、右目を細め口角の右側を少しだけ上げる、というあの独特な笑みを浮かべる。 「……そうだな。受験に無事合格したら、久し振りに(イラスト)を描くよ。その色の。杏、モデルになってくれる?」 「え!? 嘘っ! 昴君、人物も描けるの!?」 そう言えば、高校1年生の時に見た、『ロサ エグランテリアの庭園』や『魔法の白い布』の(イラスト)が、かなり上手かったのを思い出した。 「あー……。画家だった時もあったんだよ。実は。欧州各地を転々として君を探してた時にね」 「……ごめんね……」 「何度も言うけど、ソレ、杏が謝ることじゃない。俺が勝手にのことを捜していただけだから。逢えたんだから、もういいんだよ」 昴君はいつもの笑顔でそう言うと、私の頭に手をのせ軽く撫でた。 「……そこに座ってるの、もしかして、杏ちゃん?」 私達を見付けたらしい侑梨ちゃんが、図書館の方向から手を振りつつ走って近付いてくる。 「侑梨ちゃんも今まで図書館で勉強してたの?」 「うん。夏君と駅で待ち合わせしてる時間まで時間潰そうと思って。そろそろかなと思って出てきたとこ。……あ、仲林君も、こんにちは!」 「……どうも」 「あ、そうだ! 杏ちゃん。今度、受験勉強の気分転換に一緒にWデートしない? 私、夏君、誘うし! 仲林君も、どうかな?」 「夏君って確か他校生だよね? 昴君、いい?」 隣に座っている昴君に確認する。 「塾とか模試が無い時なら」 「じゃあ、二人の候補日、後でLIN〇で教えてね! ただ、ここんとこ、休みとなったら、共テ模試も志望校判定模試も詰まってるよね……。模試が終わった後っていっても、志望校によって会場も模試の日も違うし、共テ模試でも科目によって、皆、終わる時間がバラバラになっちゃうか……。それに、どの模試でも、受験する科目によっては結構遅い時間になっちゃうから現実的じゃないよね……。そうなると、全員の予定を合わせるとなると休日はちょっと厳しいかな……。ま、休日は無理でも、気分転換だから放課後の数時間でもいいし! じゃあ、私、夏君とこれから、駅で待ち合わせしてるからっ! 杏ちゃんも仲林君も、又、来週ねっ!」 私達に手を振りながら、侑梨ちゃんは、慌ただしく駅の方角へと走り去って行く。 昴君はそんな侑梨ちゃんの後ろ姿を眺めながら、私に尋ねた。 「……杏と一緒に図書委員してた、あの子。確か谷さんだっけ? 今、杏と同じクラス?」 「侑梨ちゃん? うん。1年生の時は違ったけど、2年生からは同じクラス」 侑梨ちゃんとは社会や理科の選択科目が一緒だった為、2年生からは、ずっと一緒のクラスだ。
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