窓明り

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 しかし、そんな時間も長くは続かなかった。青春時代の交際なんて、所詮若い二人のおままごとに過ぎなかった。師走に入る頃には僕たちはすれ違い始め、クリスマス直前の冬至が近づく頃、ついに僕と彼女の関係は終わりを迎えた。彼女から宣告された終焉だった。暗い時間が長い時期で、別れを告げた彼女の表情を窺い知ることはできなかった。彼女は僕にとって初めての「元」交際相手となった。  それからというもの、僕にとって夜道のオアシスだったはずの彼女の部屋の窓明りは、進んで忌避される存在になり果ててしまった。そこに彼女がいるのだと思うと、まるで何かが潜んでいる妄想を掻き立てる真っ暗な戸棚の隙間のように、視線を逸らすことができないのだった。目を離したら次の瞬間何かが迫って来るようで、視線を逸らすことができないのだった。そして同時に、彼女がこちらを視認して、視線が鉢合わせしてしまうことを恐れてもいた。窓明りそのものが、まるで彼女の(まなこ)であるようにさえ感じられたのだった。  僕は、彼女の部屋の明かりが消えていると安心した。次第に、最短距離を放棄してでも別の道を通って帰るようになった。彼女が何処かへ引っ越した、と知ったのは、年明け冬休み明けの登校初日のことだった。  それからだいぶ長い年月が経って、いつの間にか、元の彼女の家には別の家族が引っ越して来ていた。元の彼女の部屋にも別の人がいることはわかっているのだけれど、その道を通るとき、僕はいまだにその部屋の窓を見つめてしまう。彼女がいなくなった今も、その部屋の窓明りは、当時と変わらぬ姿で(まばた)きを続けているのだった。
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