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人混み狂騒曲・後日談
6月の最中。空は相変わらず不機嫌だ。
とはいえ一連の事件が終わり、ようやく平和な日常が戻ってきた。
「ああ、なんだかんだって、平和が一番だねえ」
「所長。小説の出だしで天気の話から入るものは、高確率で駄作だそうです」
「え? そうなの?」
なんで今それを言うかなあ。
探偵シリーズはほぼ天気の話から始まる。
まあいいさ。気を取り直してお茶を一口。
「ぶっ!」
想像していた味と違って、思わず吹き出した。
例えるなら、お茶だと思って飲んだ琥珀色の液体がそうめんのツユだったような衝撃だ。
「所長のそれ、そうめんのツユです」
「本当にツユなのかよっ!」
申し遅れました。ぼくは新妻雅34歳。ここ新妻探偵事務所の探偵であり、所長である。
そしてぼくに、そうめんのツユを飲ませるイタズラを仕掛けたのが、我が新妻探偵事務所の、従業員で、事務員で、秘書である、樹原愛理、25歳。
整った顔立ちと透き通るような白い肌、ボブカットを少し短くしたような黒髪が、小さくて整った顔を覆ってる。
え? ぼくの外見描写がないって? まあ、置いておこうか。
「どこに置くんですか?」
「愛理くん。その言葉こそ、その辺に置いておこうか」
思えば六月の上旬はバタバタしたなあ。
人混みの調査をしていたら、また新たに雇ってくれという子がくるし……。
この事務所のなにがいいんだろうか。
ふと、愛理くんと目が合った。
「分かってますよ所長、先ほどは失礼しました」
席を立ち、給湯室に消えた。
何が分かったのだろう? ああ、そうめんのツユか。なんだってそうめんのツユなんて出されたんだろう。
今は六月で、梅雨の時期だから……そうか! 梅雨とツユをかけていたのか!
「違います」
即答。しかも心の声まで読まれてるし。
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