希望の光

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***  今、目の前にいる雄飛と比べると、十年前、男らしいと見惚れていた顔も幼さの残るものだったのだと感じる。 「和香、久しぶりだな」 「あ、うん、久しぶり。元気そうだね。そうだ。おじいさんもおばあさんも亡くなったんだってね。全然知らなくて、私、ごめんなさい」  雄飛の祖父母が亡くなったことを知ったのは、つい先日だ。私が東京にいる間、親はわざわざ元カレの近況を知らせてはくれなかったし、村に残っている友達とは疎遠になっていた。 「いや、俺が和香に知らせなかったから。……じいちゃんは俺が高校出た年の暮れに亡くなったんだ」 「雄飛は庭師のおじいさんに弟子入りしてたんでしょ? 亡くなってからどうしたの?」 「じいちゃんの知り合いに造園業を営んでる人がいて、その人の会社で雇ってもらってた。去年、ばあちゃんが亡くなる前にへそくりを出してきてさ、俺に独立を勧めてくれたんだ。結構貯めこんでてビックリしたよ」  ハハッと笑った雄飛は、おばあさんを思い出したせいか優しい顔をしていた。頑固で無口なおじいさんと、口が達者でしっかり者のおばあさんだった。雄飛の家に遊びに行くことが多かったから、私もずいぶん可愛がってもらっていた。 「お線香あげさせてもらってもいい?」  事務所の前で立ち話をしていたので、私は深く考えもせずに裏の平屋の方に歩き出そうとしたのだけれど、雄飛が慌てた様子で私の前に立ち塞がった。 「いや! それはちょっと……」  言葉を濁した雄飛と私の間に、何とも気まずい沈黙が横たわった。  考えてみれば、雄飛だってもう二十八歳だ。結婚して子どもがいてもおかしくはない。元カノだった私がズカズカ家に上がり込んで仏壇に手を合わせたりしたら、平穏な家庭に波風を立ててしまうに違いない。 「あー、ごめん。雄飛、結婚してた? じゃあ、気持ちだけ」  そう言って平屋の方に手を合わせて目を瞑った。そうやって心を平静に保とうとすればするほど、ザワザワと波立っているのがはっきりわかる。自分から離れていったくせに、あのまま雄飛と別れていなければ私も幸せだったかもしれないなんてことを考えてしまう。  深呼吸してから目を開けると、雄飛がバツの悪そうな顔で突っ立っていた。
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