ベルの頼み事

7/10
前へ
/202ページ
次へ
〝こいつはまいったな〟 想像以上に喜ぶベルの様子を見たピートは、期待を持たせてしまったことを内心後悔しながらも、同時にどうにか手紙を見つけてあげたいという気持ちに駈られます。 「差出人の名前を教えて頂ければ見つけ易くなります。ベルさんがよろしければですが」 ベルは鳶色の瞳を輝かせながら二回も頷き、振り返ってグラント氏が背中を向けているのを確認すると、ピートに顔を近づけて小声で告げます。 「ジェフリーです。ジェフリー・リッテンバーグ」 「ジェフリー・リッテンバーグさんですね」 緩いウェーブのかかったベルの髪先が肩に触れるまで近づいた事に、ピートは顔を赤くしながら差出人の名前を復唱します。 「それでは、また明日」 ピートは受け取った伝票を鞄にしまいこんで、ベルに一礼すると、早足で戸口へ向かいます。 「ありがとうございます。本当に、本当に、よろしくお願いします」 ベルは店先まで出てきて、立ち去るピートに何度も頭を下げます。 〝こいつはいよいよまずいぞ〟 ピートは背中に目一杯の重圧を感じながら、公園脇に停めた自転車まで小走りで駆け寄ると、サドルに飛び乗りペダルを漕ぎ出します。 〝これは何としてでも、今日中に手紙を見つけなければ〟 荷台に積み上がっている配達物を一刻も早く終わらせるため、ピートは自転車を全速力で走らせ、ナラの木の公園を後にしました。
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加