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「遅いぞ、何をモタモタやってるんだ。一便の荷物はすでに入ってるんだぞ」
木箱や封筒の束が所狭しと積み重なっている倉庫に野太い声が響きます。
苦虫を噛み潰したような顔をした郵便局長が、大きな体と口髭を揺らしながら荷物の山の間を熊のような足取りで練り歩き、動きの鈍い局員を見つけては積もれた荷物が雪崩を起こしかねない程の大声で怒鳴りつけます。
「お前たち、まだ寝ぼけているのか。急げ、急げ。昼前には二便がきちまうぞ」
皆同じ萌木色の制服に金の刺繍の入った郵便帽を被った局員達は、局長に目をつけられぬよう慌ただしく動き回りながら、それぞれが担当する地区の荷物を自転車の荷台に積んでいきます。
「おい、ピート。お前の担当は中央広場の1から6区だ。そこの山を今日の内に片付けろよ」
局長の指差す先にはピートの背丈より高い荷物の山が積み上げられています。
ピートは積み重なる荷物の宛先を手早く読み取り、頭の中に最短の配達ルートを組み立てると、載せられるだけの荷物を片っ端から荷台に積み上げていきます。
「さあ行け、やれ行け、どんどん運べ」
局長の大声に追い立てられて、配達カゴをいっぱいにした自転車達が郵便局の屋根から一斉に飛び出していきます。
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