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逃げ場を失ったトニオを黒服の男達が路地の壁に追い詰めたところで、路地の向こうの暗がりからぺたりぺたりと粘着質の足音が近づいてきます。
「おいおい、わざわざ会いに来てやってんだ。逃げるこたねぇじゃねぇか」
ドスの効いた低い笑い声を響かせながら、大男の影から四人目の男が光の円の中に現れます。黒服の男の中でも一番に意地の悪そうな顔をした男は、でっぷりしたお腹を揺らしながら壁を背にしているトニオの前まで来ると、血走った目でトニオの顔を覗きこみます。
「よぉ、トニオ。借金まみれのわりには、相変わらず血色のいい面してるな」
「よぉ、ジョルジォ。あんたはいつ見たって病気の豚みたいだな」
トニオがいつもの調子で軽口を返した瞬間に、大男がトニオの肩を掴んで壁に押し付けます。
「おい、音楽家の体だぞ。丁重に扱え」
「そうかよ、天才。それで、お前さんのレコードとやらは売れたのかい。約束の期日はとっくに過ぎてるんだぜ」
黒服達のボスらしきその男が、背広のポケットから葉巻を取り出し口にあてると、すかさず小男がライターを取り出し、わざとトニオの顔に近づけ点火します。
「ああ、そりゃ、もちろん即完売さ。来週、いや再来週にはたっぷり金も入るんだ」
左の頬にライターの熱とオイルの焦げる匂いを感じたトニオが、目線を明後日の方向にやりながら声を上擦らせます。
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