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澄まし顔の太陽が空のドームの天辺に登ろうとする頃、ピートは街の中心に位置する広場にやってきます。
広場の中央には水の女神をモチーフにした噴水があり、抱えた水瓶からは清んだ水がこうこうと溢れだし、陽の光を様々な角度に反射させながら女神のベールを伝って足元の池に落ちています。噴水のへりの石垣には十二星座のレリーフが刻まれています。
女神の噴水の周りでは、石垣に腰を下ろしてあくびをしている老人や、談笑する婦人達、池の水に手を浸して遊ぶ子供、多くの人達が柔らかく降り注ぐ日差しを楽しんでいます。
その中に一層賑やかな一団があります。楽師とコーラス隊の一団です。
4人の楽師達はえんじ色の生地に金、銀の刺繍の入った衣装を身にまとい、てかてかに磨かれた革製のブーツの踵を石畳に打ちつけてリズムを取りながら、それぞれ手にしている楽器を慣れた手つきで演奏しています。
3人の若い娘のコーラス隊は、短めの丈のドレスからすらりと伸びた長い手足を、調子の早い曲に合わせて振りながら、聴衆の間をステップを踏んで回っています。
街の広場では市場が開かれ、大小様々なテントの下には甘い香りのフルーツ、赤や黄色の可愛らしい花達、水玉や縞模様の洋服や光沢のある革靴など、様々な商品が手狭に並べられていて、その間を買い物客と店主の威勢の良い掛け声が飛び交っています。
ピートは噴水の脇に自転車を止めると、広場に集まる人達の間をすり抜けながら、市場や広場を囲むようにして建つ商店に荷物を配って回ります。
「それにしたって、今日は荷物が多いな。さぁ、ふんばれ。これが最後の配達だ」
最後の荷物を下ろすためピートが荷台に手を伸ばした時、不意に何かに背中を押されます。
「わ、わ」
バランスを崩したピートの腕が当たり、荷物が荷台から滑り落ちます。
「あ、あ、危ない」
ピートは前のめりにつまずいて、自転車を押し倒しながらも、とっさに手を伸ばして荷物を掴まえようとします。ピンクのリボンで包装された可愛らしい荷物は、ピートの手の上で二度ステップを踏んだ後、すっぽりと手の中に収まります。
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