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「お腹空いたー!」
と、振り返った彼女と一瞬目が合う。
しかしすぐに逸らされた切れ長の瞳は、ダイニングテーブルに置かれた鍋の中を覗き込むと大きく見開かれる。
「うわー! 美味しそう!」
「そりゃあ、僕が作ったんだから」
すると彼女は、ヒョイッと小さな両肩を上げると笑みを浮かべた。
「早く食べよう」
「はーい」
無邪気に手を上げながら、僕の目の前の席に腰を下ろすと白いシャツの袖を捲り一つに結んだ髪を結び直す。
もしかしたら、気のせいだったのかもしれない。
だけど一瞬、扇のように広がる艶やかな黒髪からは微かに彼女の愛用していた、懐かしいシャンプーの香りがしたような気がした。
「今日も、料理作ってくれてありがとう」
目尻に皺をつくりながら、彼女が嬉しそうに微笑む。
__僕はその笑顔が大好きだ。
そして「ありがとう」と、いつだって感謝の気持ちを素直に伝えてくれる所も。
なのに、その反対の言葉だけは素直に口にすることのできない所も。
__僕の好きなキミは何一つ変わらない。
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