冬の彦星

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 ホッとしていると、彼女が目の前で小首を傾げる。 「……どうかした?」  と、呟く顔がどこか不安そうに見えるのは気のせいだろうか。 「何でもないよ」  ……何も心配することはない。  僕の心だって、あの頃から何一つ変わってはいないのだから。 「それより、食べようか」  と、微笑むと彼女もそっと微笑み返してくれる。  ……こんな穏やかな時間が永遠に続けば良いのに。 「うん! いただきます!」  と、手を合わせると彼女はグツグツと煮立つ鍋の中から真っ先にキャベツに手を伸ばす。  “__野菜から食べると太らないんだって!”  と、どこかの健康番組を観ながら目を輝かせていた姿をふと思い出す。  “__それ、本当なの?”   “__わからない!でも、試してみるから今の私の体型を覚えておいてね!”  “__はいはい”  本当は、また彼女とそんな何気ない会話を交わしたい。
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