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こっから少し離れてんだね。なんで?
「どうしたん?」
公園の端でうずくまっていた僕に誰かが話しかけてきた。
ふと顔を上げると、カラフルな色に染め上げた長髪と大きいピアス、真っ黒でゴシックな衣装を身にまとい、三日月を模したフェイスペイントを施した20歳くらいの女性が立っていた。
「え?だ、誰ですか?」
思わずドン引きした。
「あたし?あたしは瑠奈(ルナ)あんたは?」
「ぼ、僕は闇斎志真斗(あんさいしまと)です」
「いくつ?」
「じゅ、13歳です」
「ふーん。そう。にしては大人っぽいね」
ルナさんはそういうと、僕のことをじっと見つめてきた。
外見が奇抜で怖いのでそばに立たれるとかなり怖い。
僕はここから逃げ出したくなってしまった。
でも、逃げても意味はない。今の僕に逃げる先なんてない。
「お父さんとお母さんは?」
「…」
僕は口をつぐんだ。どうしても答えたくなかった。
「めんどくさ」
ルナさんはそう言ってスマホを触った。
わずかな沈黙が辺りを包む。遠くの方で遊んでいた数人の小学生はいつの間にかいなくなっていた。
「あった。これ?数日前の心中事件か。闇斎一家の家族全員が死亡。刃物でってことは、スプラッタ映画みたいになってたんかな?」
僕は目を見開いて彼女を見た。
ルナさんはどこ吹く風といったようにスマホを触り続けていた。
「でもこっから少し離れてんだね。なんで?」
「な、なんでわかるの?」
「そりゃあシマトクン。あたしは霊媒師だからだよ」
「れいばいし?」
「あれ?人狼とかやんない?死んだ人間のことがわかる職業のこと」
「知りません」
ルナさんはなんの話をしているんだろう?
「あー…もしかして、シマトクンは自分が死んでることに気づいてない感じ?」
「…え?」
「シマトクンもう死んでるよね?これいる?」
そう言ってルナさんはポケットから飴玉を出して、僕に投げ渡してきた。
僕はとっさのことに受け取ろうとしたけれど、飴玉はその手をすり抜けてポトリと地面に落ちてしまった。
その光景を見た僕は思い出した。
いや、忘れてたわけじゃない。
答えないようにして、考えないようにして、思い出さないようにして、目を背けていただけだ。
僕はもう死んでいた。
僕は…お父さんに殺されたんだ。
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