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【虫食いだらけのスーツ】
和服の絢爛豪華な帯をスカートにリメイクする為にミシンで縫っておりますと、ドアに付いたベルが鳴って来客を知らせました。
「いらっしゃいませ」
お客様は杖をついた老人でした。頭髪はふさふさしておりますが、真っ白です。杖は曲がった腰を支える為でしょう。
「こちらで、服を直してもらえるか」
皴がれた声でおっしゃいます。
「はい、承ります。故障個所や内容によってはお断りするかもしれません。とりあえず拝見させていただいてよろしいですか?」
言うと老人は重々しく「うむ」と答えて、店内を進んでまります。
作業台にご依頼品を出していただきました。
少しかび臭い、時代遅れのスーツです。
そう、一見定番と思えるスーツにも流行はあります。襟の形や大きさ、袖の長さや裾の切り方など、時代を反映するのです。
こちらはどう見ても50年は溯ると思います、それに──。
「あの……失礼を承知で申し上げます。こちらは大量生産の廉価なものだとお見受けします。手直しするのにもお金はかかります、多分新しいものをお買い求めになられた方が、はるかにお安く済むかと」
50年の時を越えたスーツは、何か所も虫食いがあり、襟や袖口、ズボンの裾はほつれ、変色しています。
全て直したら……数万円はくだらないでしょう。
男性は頭を左右に振りました。
「何件も回った。だが君が言うのと一緒だ。金を積んで直すくらいなら買い直した方がいいと。そういう問題じゃないから、直してくれる者を探しているんだ」
溜息交じりにおっしゃいます。
「もういい。袋に戻してくれ」
お持ちになった紙袋を杖で指し示しました、次のお店に行かれるのでしょうか。
「あの……失礼でなければ、そうまでして直したい理由をお聞かせくださいますか?」
老人は私とスーツを何度も行き来して見てから、大きな溜息を吐いて話を始めてくださいました。
「──俺がまだ大学生だった頃だ」
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