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タイムスリップ?
体を揺すられ目を覚ました。
「あ、よかった!生きてる!」
ルミの顔が目の前にある。
布団から体を引き剥がすようにして起き上がった。
「まだ寝てるから死んじゃったのかと思ったよ、朝ごはんも食べてないしさ」
すっかり夜になっていた。いったい僕は何時間寝ていたのだろう。
親子丼の夕食を終えると、ルミが海へ行こうと言い出した。
「今行くと夜光虫が見られるよ!」
「夜光虫……」
丘の上から見える青く光る海が頭に浮かんだ。
「それ夢で見た」
「夢で?」
「あ……」
その時僕はさっき見た夢だけではなく、多分その前、飛行機の中で見た夢をも思い出した。
新緑の栗林、丸木船に乗った人々、空に向かってそびえ立つ祭壇。
「なんか縄文時代の夢を見た」
「えー、なにそれ」
ルミは興味津々で、面倒臭がる僕から夢の詳細を聞き出した。
「舜くんすごい」
ルミは異常に興奮している。
「舜くん縄文時代興味ないと言うの嘘でしょ」
「嘘じゃないよ、縄文時代なんて学校の教科書の一ページ分の知識しか持ってないよ」
「だったらもっとすごい」
「なんで」
「だって舜くんの夢の内容、全部本当のことだよ、もしかしてそれは夢じゃなくて、舜くん縄文時代にタイムスリップしてたんじゃない?」
「やめろよ」
僕は思いっきり顔をしかめた。ルミの発想にはついていけない。
「じゃ、なんでそんな夢を見たの?」
「偶然だよ」
「そんな偶然あるの?」
「あるよ、多分」
ルミが僕ににじり寄って来た。
「なに?」
「舜くんの夢に出てきた祭壇、それたぶん六本柱のことなんだよね」
「六本柱?」
ルミは一冊の本を持ってきた。
「ほら、これ」
開いたページには、大きなやぐらのような物の写真が載っていた。柱の間から太陽が上っているのが見える。
僕は思わず吹き出した。
「なにこれ、こんな原始的なもんじゃ全然ないよ、もっとちゃんとした……」
ルミの意味ありげな視線に僕は口を閉じた。
「ねえ、明日発掘作業の仕事休むからさ、舜くんに会わせたい人がいるんだ」
嫌な予感がした。
「会わせたい人って?」
「タイプスリップの研究をしてる人なんだけどさ」
でたよ。
「やだよ」
「いいじゃん、どうせ暇でしょ」
「暇じゃないよ、これから先のこといろいろ考えないとだし」
「じゃあさ、もし今晩も縄文時代の夢を見たら、明日その人に会いに行こうよ」
そう引かないルミに僕は渋々承諾した。ルミは小躍りして喜んだ。
確かに夢にしてはリアルだし、全てを偶然として片付けるには無理があるような気がする。これが他人事だったら僕もルミのように面白がったのだろうけど、自分のこととなるとそうはいかない。
なんだか不安だ。
僕はまだ踊り続けるルミを恨めしげに睨んだ。
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