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舜の決心
「危ない!」
僕は飛び起きた。周りを見回す。蚊帳の中に敷かれた布団の上にいた。
また縄文時代の夢を見てしまった。ルミのいびきが隣の部屋から聞こえてくる。
『じゃあさ、もし今晩も縄文時代の夢を見たら、明日その人に会いに行こうよ』
黙ってたら分からないさ、今日は普通の夢を見たと言えばいい。
喉がカラカラだった。炊事場の冷蔵庫を開けると、コーラの二リットルボトルが入っていた。喉を鳴らしコーラを飲む。
蚊帳の中に潜り込もうとして、さっきルミが僕に見せた本が出したままになっているのに気づいた。『縄文の神秘』というタイトルの分厚い本だ。
僕は本を手に取ると目次に目を走らす。
『縄文人と漁』ページをめくる。発掘された釣り針や銛先の写真が目に飛び込んできた。
じわりと脇に汗をかく。僕が夢で見たものと同じだった。釣り針はちゃんと返しがついていて、現代の釣り針とほとんど変わらない。
いやいや、偶然だ。
それでも僕の手は本のページをめくり続けた。
三内丸山遺跡について書かれたところを食い入るようにして読んだ。
鼓動が早くなる。ルミの言う通り、僕の夢は限りなく史実に近かった。
ただ違うところもあった。一番の違いは顔だった。いわゆる縄文顔と呼ばれる眉が太い、がっちりとした顔つきが今の僕らが想像する縄文人の顔だが、僕の夢に出てくる人たちは皆がそんな顔をしているわけではなかった。
弥生顔と呼ばれる、大陸から来たあっさりとした顔つきの人もいた。身長も想定している身長より高い人も多い。
のちに縄文人の顔について、僕の見た夢のようにいろんな顔つきの人がいたと唱える学者もいることを知った時、僕は自分の見ている夢がただの夢ではないことを再確信することになる。
祭事のページを開いた時、どきりとした。
夢の中に出てきた男が被っている仮面とそっくりの写真があった。僕の目を引いたのはそれだけではない、縄文人の衣服を想像して作られた服が男が着ていたものと酷似していた。
違和感を感じた。夢の中でもそうだった。あの男だけが他の人間と違うのだ。
ルミは僕がタイムスリップしているのではないかと言ったが、それは違うと思う。
僕はあくまでも傍観者だ。一度だけまるで自分がそこにいたかのような瞬間があったが、それだけだ。
タイムスリップしているのは、ルミが僕に会わせたがっているその人物なのではないか?その人はすでにタイプスリップに成功しているのではないだろうか?
僕の不安は強い好奇心に変わっていった。
布団に横になった時、僕はそう決心していた。それと同時に新たな不安が生まれた。
夢の中のあの少女はどうなったんだろうか。サメに襲われてしまったのか?このまま寝たら、夢の続きが見れるだろうか?
寝よう!
興奮気味なのにも関わらず、僕はすぐにまどろみ始めた。
頭の上の方に熱を感じる。部屋の隅に置いている僕のリュックだ。薄れゆく意識の中で、その中で何かが青く光っているような気がした。
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