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仮面の男
意識が戻ったとたん、口から海水を吐いた。イヒカの周りで人々の歓声が上がった。
体を起こすと大勢の人がイヒカを取り囲んでいた。でも人々の視線はイヒカではなく、別の方向を向いていた。中には目に涙を浮かべている者もいる。
彼らの視線の先にいたのは、あの仮面の男だった。みな砂浜に額をこすりつけ、男に平伏した。
誰となく祈りの言葉を唱え始める。声はだんだんと大きくなり、浜に響き渡った。
ゆっくりと男は歩き出した。人々は男に従うように、その跡をついて行く。
浜にイヒカとタケリだけが残った。
「イヒカ大丈夫?」
「うん……、わたし一体……」
「イヒカ、一度タマになりかけた、それをさっきの人が生き返らせた」
そう言うタケリは全身ずぶ濡れだった。
イヒカに突進してきたサメを銛で突いたのはタケリだった。弓のように体をねじった、その太い尾がイヒカの体を打ち、イヒカは意識を失った。
船にイヒカを引き上げた時、イヒカは瀕死の状態だった。人々は急いで浜へと船を走らせた。
でもイヒカの体を浜に横たわらせた時、イヒカはすでに息をしていなかった。
その時あの男が現れた。男はイヒカの胸を手で何度も押しながら、イヒカの口に息を吹き込んだ。
「初めて見た、祈り使わない、イヒカ生き返らせた」
タケリは男の歩いて行った方角を見た。その先にはトゥーンが見えた。
「あの人……」
イヒカは男の驚くほど柔らかい手を思い出していた。
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