プロローグ

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タケリはイヒカと同じ栗の花が咲くときに生まれた。他に同じ時に生まれた子どもたち――その半分ほどはもう死んでしまった―の中で、タケリは一番大きく、それどころか集落一の大男にその背丈がもうすぐ並ぶほどだった。髭も大人の男並みに立派に生えている。 だが体は大人でも頭の方はまだ子どもで、いつも食べ物のことばかり考えている。そのわりには肝心の狩りは下手だった。 ただ弓を引くのも、モリを投げるのも決して下手ではない。むしろ上手い方だろう。タケリは獲物の息の根を止める最後の一撃をいつも躊躇した。 紫色の唇で祈りの言葉を呟き、指先を震わせるタケリの代わりに何度イヒカがとどめを刺したことだろう。 集落の男たちはそんなタケリを女たちと一緒に食物を栽培したり、土器や土偶でも作っていた方がいいんじゃないかと勧めた。 集落の仕事は男女で分担されているものが多かったが、必ずそれに従う必要はなかった。得意なことをすればいい、みんなそう思っていた。 それでもタケリは皆の一番後ろについて狩りに出かけた。 五隻の丸木舟がすぐ目の前までやって来た。乗っている男たちの顔がはっきりと見える。額と頬に小さな丸い刺青がいくつも彫られ、両耳には大きなヒスイのピアスがはめ込まれている。 「イトだ!」 タケリははしゃいだ。 五隻の船は人々の歓声を受けながら勢いよく砂浜に乗り上げた。 船の上の男たちが次々と砂浜に飛び降りてくる。浜にいる男たちも一緒になって丸木舟を陸へと押し上げる。 タケリもすぐにそれに加わった。タケリはその体格にふさわしく集落一、二位を争う力持ちでもあった。 船が十分に砂浜に固定されると、次々と大きな土器が運び出される。土器にはシマ特有の丸い模様が施されていて、土器ごとに様々な物が詰め込まれていた。 この近辺の海では取れにくいブリやサバ、タケリ念願のイノシシの肉もあった。そしてヒスイの原石。 これらの物をこの土地の物と交換するのだ。でもそれだけではない、ここには他の土地から運び込まれた物がたくさんある。 シマの黒曜石、クジの琥珀、フドのアスファルト。 タケリとイヒカの暮らすここサンナイは様々な土地の船が集まる交易地点であり、それにより新しい情報や技術が発達した大集落だった。そしてサンナイは他の土地の人々――特に若い世代――の憧れでもあった。
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