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大正時代にタイムスリップしたような居間に通される。
「コーヒーと紅茶どちらがいいですか?」
「あ、ジョーわたしがやったげるよ、舜くんコーヒーでいいよね」
ルミはここに何度も来ているのか、勝手知ったる様子で居間から出て行ってしまった。
「さてルミさんからだいたいの話は聞いてますが、舜くん本人からまた詳しく聞かせてもらえないでしょうか?」
子リスのような目をしたジョーは車椅子ごと僕に向いた。さっきは僕と同じ歳くらいかと思ったが、もっと上かも知れない。座っていても小柄だと分かる華奢な体つきだが、妙に貫禄がある。貫禄のある子リス。
「ああ、うん……」
僕が言い淀むと「あ、すみません」ジョーは唐突に謝った。
「その前にもっとちゃんと自己紹介をしますね」
ジョーはアメリカの超有名大学を飛び級で卒業したいわゆる天才だった。なんと歳は僕より二つ下だった。足に障害を持って生まれたジョーは、今までの人生の中で一度も自分の足で歩いたことがなかった。
ここまでの天才なら医学の道へ進めば、自分の足も治せるのではないかと考えていたら、まるで僕の頭の中を読んだようにジョーは言った。
「僕の研究はどこにでも、いつにでも、それらがどんな遠くても、一瞬にしていける、そんな研究なんです」
一応昨夜、僕なりにタイムスリップについて調べた。調べたと言ってもスマホで検索しただけだけど。
アインシュタインの一般相対性理論、ワームホール、ブラックホール、光速移動、ティプラーシリンダーなど、知らない言葉がたくさん出てきた。
ジョーはまたもや僕の頭を覗いたかのように口を開いた。
「一般相対性理論や光速移動、ティプラーシリンダーなどは、すべて重量や質量といった物理学からの発想です。それではタイムトラベルは実現しません。もっと霊的なものです。そこには距離というものは存在しません」
霊的?なんだなんだ、そっちの方向か?こいつもしかしたらやばい奴なんじゃないか?世の中の秀才が変な宗教にはまったり、シリアルキラーになったりすることがよくあるじゃないか。
「宗教なんかじゃありませんよ」
ジョーは口元だけで笑った。僕は気まずくなって咳払いをした。
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