クレイジールミ

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あれは祖父の葬儀の時だった。みんな見て見ないふりをする僕のピンク色の頭を見て、ルミは『わたしはレインボーカラーにしたことあるよ』そう言った。 その時ルミの髪はレインボーではなかったが、坊主頭だった。 そんな昔のことを想い出しながら、新青森駅の前でルミを待った。 ルミのことだ、どんな奇抜な車に乗ってやって来るのかと思ったら、見事に予想を裏切られる。 ルミは白いハーレーダビットソンに乗ってやって来た。 「ハロ〜、マヤボーイ」 ルミはヘルメットのシールドを上げ、顔の上半分を覗かせる。 「なに、そのマヤボーイって」 ルミはフルフェイスのヘルメットを差し出した。 無言でそれを受け取る。 「お腹空いてる?なんか食べたい?」 ヘルメットを被った僕は重くなった頭を横に振った。 「ちゃんとつかまっておくんだよ」 ルミの後ろに乗り込んだ僕は、躊躇いがちにルミの腰に手を置く。 エンジンを唸らせハーレーは走り出した。 三十代後半のルミの腰に余分な肉はついてなかった。ちなみにルミは一度インド人と結婚したが今は独身だ。子どもはいない。 青森市街を抜け、二十分ほどのどかな田園風景の中を走ったあと、ハーレーは昔ながらの民家の前に止まった。 数羽のニワトリが僕らを迎える。 「ここだよ」 ルミは家の前にハーレーを停めっぱなしにしたまま、僕を家の中に招き入れた。 解放的な玄関の敷居をまたぐと、肌に触れる空気がひんやりとし、懐かしい匂いがした。 玄関の奥には広い土間があり、その奥は炊事場になっている。六畳間と八畳間の部屋が二部屋ずつ、田の字型に配置されたこの家は、典型的な古民家の間取りなのだとルミは言った。家の両側には縁側があり、そこから庭が見渡せた。 開け放たれた家の中を蝉の声と風が通り抜けていく。 戸締りという言葉とは無縁な、こんな家に住んでいた時代は今よりも平和だったのだろうな、と、思うのは短絡的で、僕は薄っぺらい懐古趣味は嫌いだ。 古き良き日本とか、昔は良かったなどと言えるのは当時の苦労を知らないから言えることだ。歴史ある国々を数日で回ってしまうツアーのように、表面を撫でるだけの知識しか持たない頭の発想だ。 なんだかんだ言って、我ら人類が築いてきた文明は素晴らしいのだ。人々に豊かな生活を与えてくれているのだ。 「どしたの舜くん、難しい顔して、ここ、この部屋舜くん使っていいよ」 この家で一番上等そうな押入れ付き八畳間に、僕はリュックを置いた。
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