クレイジールミ

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「ちょっとさ、スイカ切って来るから待ってて、あ、もしトイレ行きたくなったら、あそこね」 トイレに行くには隣の六畳間をまたいで行かなければいけなかった。こっちも空いてるなら立派な八畳間でなくても思ったが、すぐにその考えを改める。 この家は昔ながらの古民家であったが、それだけではなかった。 「なんなんだよここは……」 大小様々な土器、麻で作られた民族衣装のような服、粘土で作られた平らな人型の作り物でこの古民家は溢れかえっていた。特にトイレに近い六畳間には粘土の人型がところ狭しと置かれていた。 ルミのことだから普通の家じゃないだろうとハーレーの後ろに乗っていた時から予想はしていたが、ここは古民家&縄文時代か。 縁側に立つと白いハーレーが夏の太陽に反射して光っていた。 「お待たせ〜」 ルミはどう見ても二人では食べきれない量のスイカを持って来た。あえてそんなことは指摘せずに僕は黙ってスイカの一切れを手にとると、縁側に腰掛けた。ルミも僕の横に並ぶ。 「今、縄文時代にハマってんの?」 僕はスイカのてっぺんにかぶりついた。絞ったら砂糖水ができそうなほど甘いスイカだった。 「うん、すごいっしょ」 目の前に広がる庭にも、土器やら人型の粘土やらが置かれている。 「あれらって、まさか……」 「本物のわけないっしょ、全部レプリカだよ」 「だよね……」 「あれって土偶?平らなやつ」 「うん」 「ふーん、土偶ってもっと立体的なんじゃないの?」 「三内丸山から出土される土偶はみんなあんななんだよ」 「サンナイマルヤマ?」 「縄文一の大集落だよ」 「へえ……」 僕は口の中のスイカの種をどこに出そうか迷う。 「へえってさ」 ルミがペっと種を庭に飛ばしたので、僕もそれに続く。ニワトリが種めがけてすごい勢いで走り寄って来る。 「興味ないの?古代好きでしょ?グアテマラまで行っといて」 「縄文時代なんて興味ないよ、古代文明は好きだけど、縄文なんて原始時代みたいなもんでしょ」 「ノン、ノン、ノン、ノーーーン!」 ルミは僕の鼻先に突き出した人差し指を左右に振った。 「縄文時代は原始時代どころか、日本で初の文明と言っていいほど高度な技術が発達していた時代だったんだよ」 「そなんだ」 僕はわざと素っ気なく応えた。 それからルミはいかに縄文時代がすごいかを熱弁し出したが、僕はほとんど聞いてなかった。
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