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紅をさす 10
R18
どうして、こんなことになったのだろう。
あの着物を着てから、俺の中の何かが狂ってしまった。
今……俺は信二郎に組み敷かれ、躰に墨で絵を描かれている。
信じられない。男同士でこんなことをするなんて。だが抗ってはみるが心の奥底では嫌ではなかった。
男らしい信二郎が俺を見下ろすと、その力強い目線に心を奪われる。途端に躰に描かれた牡丹の花は、俺の気持ちを包み隠さず外へ出すかのように赤く染まっていく。平らな胸に描かれた牡丹の軸を信二郎の口で強く吸われるたびに、脳天が麻痺するような感覚で膝がガクガクと震える。
「はうっ」
気持ちいい。
下半身が苦しい。
もうこのまま信二郎に女のように身を任せるから、好きにしてもらっていい。
そんな気持ちがどんどん膨らんでいってしまう。
下半身が苦しくてしょうがない。
「信二郎……」
「んっ……どうした?」
「もう……苦しい……」
「ここか? 」
信二郎の男らしい手が俺の下半身を弄る。
「確かに苦しそうだな。今、自由にしてやるよ」
長襦袢の腰紐をするりと解くと信二郎の手が太腿に伸び、がしっと掴まれ大きく左右に開かれる。あぁ……そんな……俺の秘所が露わになってしまう。
「うっ……よせ! こんな格好は恥ずかしい」
「夕凪……嬉しいよ。もうこんなになっているんだな」
「ここにも描きたい」
下腹部をすっと撫でられる。
「えっ! よせっそんなところにまで! 」
信二郎の筆が俺の臍の周りを通ったかと思うと、強弱をつけながら、下腹部にも繊細な絵を描きあげた。
「お前……そんな場所にまで一体……今度は何の絵を描いた?」
「蝶だ」
「蝶?」
「あぁ幼虫からさなぎ、そして成虫へと変化を遂げる蝶は、変化と喜びの象徴とされているんだよ。着物の柄にもよく使っている。新しい道を開き美しい自分へと変化する姿は 、まるで今俺にこうやって抱かれている夕凪そのものだ」
「信二郎……なんで……俺にこんなことを……」
「それは夕凪……君が好きだからだ。ただそれだけの気持ちだ」
「お前は一体……」
「夕凪、君は嫌か」
そう問われると答えられない。本気で嫌だったら、もうとっくに逃げ出している!
「夕凪……このまま抱きたい。いいか」
描いたばかりで、まだ墨が乾ききらない俺の躰に信二郎がぴったりと覆いかぶさってきた。僅かな隙間もないほど、ぴったりと躰を合わせてくる。
「しっ信二郎……何を? 」
「夕凪と分かち合いたくてな」
躰を離すと、今描いたばかりの蝶の絵が、信二郎の腹に見事に転写されていた。
「君と私の間を飛び交う蝶だよ。これは」
俺の胸には牡丹が咲き誇り、そして俺たちの間を飛び交う蝶が二匹。立体的な官能な絵の世界が繰り広げられていた。そのあまりの妖艶さに、俺は心を奪われてしまった。
「信二郎……俺はどうしたらいい?」
「ふっ心配するな。私に躰を預けろ」
答える間もなくいきなり、俺の高まったものを信二郎がいきなり口に含んだ。
「やっ!……だめ……そんなとこ……あぁ…」
信二郎の頭を手で押さえ、どうにか離そうとするが、さらにジュッっと吸われ舌が這うともう限界に近かったせいか、ぶるっと身震いした途端に呆気なく彼の口腔内に精を放ってしまった。
「あっ……いやだ! あうっ! そんなもの飲むな……」
「なんで? 美味しいのに」
「お前は……」
男の信二郎にこんなことをされていいのだろうか。少しばかり残った理性が邪魔をするが、放った白濁の残滓を信二郎が指で拭い俺の孔に撫でつけてくると、もう何も考えられない。
くちゅくちゅと卑猥な音を立て、信二郎の指が俺の蕾を抜き差ししていく。あまりに静かな部屋でゆっくりと信二郎がそのようなことをするので、恥ずかしさで埋もれてしまいたくなる。信二郎のことを霞む視界の中で真っすぐに見つめ、縋りつく様にその逞しい背に手を伸ばし抱き付いていた。
いつの間に俺は。
「もう挿れてもいいか。我慢出来ないよ……夕凪がそんな風に煽るから」
「くっ」
全ては夢のようだ。
だが現実だと実感する痛みと共に、信二郎に躰を貫かれると、見開いた目から涙が溢れ出た。
「駄目! いたっ痛い……あっぁ」
「夕凪悪いが少し我慢しろ。ここ気持ちが良いか」
秘所を破瓜される痛みに悶え苦しんでいると、なだめるように俺のものを信二郎が揉み込んでくる。
「あっああっ、うっーうっ」
悲鳴が迸る。
「そうだ。力を抜いてそのまま躰を預けて……ゆっくり動かすから感じていけ」
信二郎の体温が俺の躰の奥深くに確かに感じる。こんな部分に自分以外のものを受け入れるなんて信じられない。破瓜の痛みは想像以上に辛かったが、信二郎がゆっくりと動き出すとその辛さを超えた部分に何かを見出してしまった。
こんな世界があるなんて。
一体どこで踏み間違えた?
そうだ……紅をさされた時、 あの瞬間からだ。
踏み間違えた世界は俺が今まで生きてきた世界とは別世界であったが、俺が愛する友禅美の世界とは近いものがあった。 信二郎が描く友禅の柄のように、幻想的に蝶が舞うこの世界に暫し身を任せよう。
絵師の信二郎……
俺は今、お前に抱かれ躰を揺さぶられている。
この先のことなんて今は考えられない。
今この瞬間、夢のような時にただ躰を委ねるだけだ。
「出すぞ」
信二郎が俺の腰を高く持ち上げ、一気に奥深くまで侵入してきた。俺は布団の綿をきゅっと握りしめ目を瞑り、襲い来るであろう強い刺激に耐える準備をした。
「あぁーっ!」
「くっ」
俺の躰の誰も入ったことがない奥深い所で、信二郎の熱いものが弾けるのを感じると同時に、自分も再び弾けてしまった。
「うっ……はぁ、はぁ……」
「夕凪ありがとう。受け入れてくれて」
迸る信二郎の汗を浴び、その男らしい匂いに包まれながら、ぎゅっときつい位躰を抱きしめられる。
あぁでももう躰が脱力していく。沈むように重たい。喋るのも億劫で、信二郎の背中をきゅっと抱き返すので精一杯だった。ただ遠のく意識の中、確かに思った。
俺は後悔してない。
お前の筆を下ろす相手になれて嬉しかった。
『紅をさす』了
あとがき(不要な方はスルーで)
****
冒頭いきなり二人は結ばれました!
濃厚な和風なRを目指してみました。
さてお話はここまでが序章なようで感じで、この後いろんな方向へ進展していきます。
途中、切ない不憫展開もありますが、最終的には幸せなハッピーエンドです。
どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。
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