白き花と夏の庭 15

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白き花と夏の庭 15

 夢中で竹林を抜けた所で、ドンっと誰かにぶつかった。馴染みのある匂い、そしてこの作務衣生地と広い温かいは胸は…… 「りゅ……流水さんっ」 「どうした? 夕凪。何故そんなに躰が濡れている? それに泣いているのか」  心配し驚いた声。  あぁ本当に流水さんだ。良かった……ちゃんと会えた。  ほっとしたと同時に膝から地面へと崩れ落ちてしまった。 「流水さん……」 「おいっどうした? 何かあったのか」 「あのっ」  脳裏に過ったのは、血だらけで顔を歪める律矢さんの姿。  しっかりしろ!  俺がこんなんでどうする。  律矢さんは俺のせいであんな大怪我をしたというのに! 「流水さん、助けて! 滝で……律矢さんが大怪我を! 」 「滝ってまさかあそこに行ったのか。それに律矢って誰だ? 」 「とっとにかく来て下さい」  俺のただならない様子から、流水さんは何かを読み取ったようだった。 「よしっわかった」 「早く!」  俺は流水さんの腕をぐいっと掴んで、今来た道を引き返そうとした。 「いや待て、怪我人ならすぐに医者を呼ばないと。夕凪は本堂にいる湖翠兄さんに知らせて、医者を呼んでもらえ。彼は俺が助けて来るから、分かったな」  諭すように言われて、もっともだと思った。あの怪我は素人でも分かる、かなりの大事だ。 すぐに医者を呼んでもらわないと……焦って焦って頭の中がぐるぐる回って来る。 「しっかりしろ! いいから早く行け! 」  流水さんによって、ドンっと背中を押された。  その勢いで俺は再び走り出す。  今度は目をしっかり開けて、真っすぐに走り出す。早く……一刻も早く。 ****  滝は竹林の更に奥にある。夕凪には足を踏み入れるなとあれだけ強く言っておいたのに、まさかあそこに入り込んだのか。滝の周りの足場は、岩が脆くなっていて危ないから案じていたのに。  それにしても怪我をした律矢というのは、一体誰だ。  もしや……夕凪がずっと待っていた相手なのか。  とにかく急ごう。細かいことは後でいい。  まずは怪我人を救うことが先決だ。  茂みをガサガサと大きく揺らして滝つぼの下の岩場に姿を現すと、男の姿が見えた。  二人いる。一人は横たわり、もう一人は必死に介抱しているようだった。横たわっている男の方は真っ青な顔で、手に風呂敷のようなものを巻きつけて苦痛で顔を歪めている。意識もかなり朦朧としているようで、もう一人の男が必死に呼びかけていた。 「おいっ! 律矢っ! しっかりしろ。目を開けろ」 「うっ……う……」  だが苦痛に顔を歪めるだけで、確かな返答はない。瞬時に相当やばい状況だと判断できた。 「おい! お前達大丈夫か」 「えっ……あんたは? あぁそうか、夕凪が呼びに行った人なのか。こいつが酷い怪我なんだ。すぐに医者を呼んでくれ」 「ああ夕凪に呼びに行かせた。酷い怪我のようだな。すぐに寺へ運ぼう」 「分かった。こっちの肩を支えてくれ」  二人がかりで運ぼうとした時、意識朦朧としていた男が気が付いた。 「うっ誰だっ? 離せっ! いいんだ。放っておいてくれ。自分でなんとかするからっ」  苦痛で顔を歪めているくせに、凄い力で俺達の支えを、振り解こうとしてきた。 「おっおい! 暴れるな! 血がっ」 「いいんだ、俺はもう! 」  その拍子にポタポタと止血していた布から血が滲み出て、地べたに点々と滴り落ちた。 「おい! もう暴れるなっ! 危ない状態だ」  一体何が彼をそのような後ろ向きな気持ちにさせているのか。  もしかして……夕凪に対してなのか。  勝ち目がないとあきらめているのか。  なんとなくそんなことを察した。  いや違う、勝ち目がなかったら諦めるのか……それでいいのか。  まるで自問自答しているようだった。  それは俺自身に……  一瞬ぼんやりとしていると、隣の男からも激しい怒声が飛んで来た。 「馬鹿か、お前……何を言うんだ! 勝手に諦めるな!」
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