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道 6
三日……残された時間は三日。
この僅かな時間で、俺が夕凪にしてやれることはあるのだろうか。半分血が繋がった人間なのに、何故こんなにも彼に対して欲情するのか。
一体何の因果だ。
一度は手に入れたと思った夕凪の躰と心。
すぐ近くにいるのに、もう触れてはいけないなんて……なのに何も知らない夕凪は俺に縋って来る…
胸元を掻きむしりたい程の複雑な気持ち。
どうしたらいい!
暗い溜息ばかりが、薄暗い部屋に溢れていく。
****
「湖翠兄さん入ってもいいですか」
「流水か、いいよ」
部屋に入って来た流水の精悍な顔を見て、ほっとした。
「兄さん……夕凪は一体どうなるのでしょうか」
「憔悴しきった夕凪が寺に戻って来て、庭で起きた顛末を掻い摘んで聞いたが、なんともやるせない気持ちだよ……僕も」
「何故あの律矢という男は、夕凪を必死で追い求めてやって来たのに、ここに来て身を引こうと? 」
「何か深い理由がありそうだな」
流水に聞かれたが、何も答えられなかった。
でもどことなく感じるものがあった。もしや……彼と夕凪には超えてはいけない縁があるのでは。だからなのか。手のひらを返したように夕凪を拒むのは。
「兄さん?」
「あぁごめんよ。いずれにせよ決めるのは夕凪なんだ。時が来たら……僕たちは見守り送り出すことしか出来ない。夕凪にとって……やはりここは仮の住まいだったのだよ」
「そうか。兄さんも寂しくなりますね。夕凪のこと随分と可愛がっていたから」
「あぁでもお前がいるから……大丈夫だ」
「……俺も兄さんが一番大事だ」
流水が人懐っこい笑顔を浮かべてくれた。
大事な弟なんだ。お前は……けっして穢したくない大事な存在だ。
この世では、触れあえない縁が恨めしい。弟の笑顔がどこまでも眩しい。
「僕も流水がいれば寂しくない」
「兄さん……嬉しいよ」
流水の手が触れてくれる。
そこから熱い欲情が飛び出さないように、必死に煩悩を振り払う。
****
「夕凪、いつまでもそう落ち込むな」
「信二郎……だが俺は酷い人間だ」
「何故?」
「お前も律矢さんも欲しがるなんて、選べないなんて」
「夕凪……お前は本当に愛されたのだな。私達二人から、同等の愛を受け取ったのだ。私も最初は律矢に寝盗られたと恨んだものだが、あいつの生きざまを見ているともう憎めない。あいつは決死の覚悟で私に夕凪を託してくれたんだよ。でも夕凪、君がいつまでもそんなんじゃ彼も報われないよ」
「……そうだな。それは頭では分かっているのに、俺の躰が変なんだ。二人のことを考えると」
俺の躰は一体どうしたというのだ。
二人から与えられた嵐のような熱が忘れられない。これはまさか……そんな。
俺の本心……一体いつからこんな考えを持つようになったのだろう。こんな躰になってしまったのか。この状況に追い込まれて、とうとう気が付いてしまった。
「軽蔑するか。俺のこと……今何を考えているか、信二郎はもう気付いているのだろう」
「夕凪、やはりそうなのか。私だけでは満足できない躰になってしまったのか」
「こんなの嘘だ。そう思いたいよ。だが俺の躰が変なんだ。二人を求めている! 二人に抱か……」
「もう言うなっ! そんなこと! 」
「いや、言わせてくれよ。信二郎。俺は選べない。二人に……抱かれたい。それが本心だ。浅ましいと思うだろうが、もう自分の気持ちを隠せない」
俺はどこまで運命の悪戯に翻弄されるのだろうか。いや違う……これは今まで敷かれた道しか歩んでこなかった俺が初めて自分で選んだ道。
道……
道はそもそも分かれていなかった。
どもまでも一本道だった。
信二郎と律矢さんと共に進みたいという道しかなかった。
どんなに考えても……
三人で行きたい。
三人で生きたい。
三人で……
こんなの間違ってる。
そう思うのに……その気持ちを、もうなかったことには出来ない。
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