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夜のしじま 2
こんな顔……流水に見られたくない。
今どんな表情をしているのか、それは自分が一番よく分かっている。だが顔を背ける前に、流水の持っていた蝋燭の灯りで顔元を照らされてしまった。
「やっぱり湖翠兄さんか。こんな夜にどうした?」
「あっいや……少しやることがあって」
「はぁ……全く兄さんは、嘘がつけない人だ」
「違うっ本当だ」
頑なに拒む僕のことを、流水は居たたまれないような表情で見下ろした。
「なぁ俺には素直になってくれよ。正直に言って欲しい。兄さん……寂しくなったのだろう?」
「え……」
「夕凪のことだよ。ここから手離す決心をつけていたのだろう」
「何故……それを……」
「馬鹿だなぁ。何年あなたの弟をやっていると思ってるんだよ」
弟……そうだ。流水は僕の大事な弟だ。それは分かっているが、改めて流水から言われると堪えるものだ。
「兄さんが本当は寂しがり屋だってことは知っているつもりだけど?」
「そんなんじゃない」
「兄さんはいつも意地っ張りで可愛いよ。まぁそう気を落とすな。俺が兄さんの傍にずっといてやるから……寂しくなんてさせないから」
「っつ…」
「ん? 聴こえないよ」
「……何処にも行くな……お前だけは…」
「やっと言ったな。俺は嬉しいよ。兄さんの傍にいることが出来て」
流水、僕の逞しい弟。お前がいれば我慢できる。可愛い末弟のような夕凪との別れも受け入れられる。
「泣くな」
「泣いてなんかいない」
流水に優しく肩を抱かれ、僕は目をぎゅっと瞑った。
泣いてはいけない。悟られるな。
兄弟以上の情を君に抱いていることを、絶対に知られてはいけない。
「流水…」
いつの日か恋人を呼ぶように、甘くそう呼びたい。そして僕のことを「湖翠」と甘く優しく呼んで欲しい。
僕たちは叶わぬ夢を抱き、この先も生きていくのだろう。
それでも君がただ傍にいてくれるだけで我慢できるよ。我慢する。
****
「夕凪……」
「夕凪……」
二人の男に呼ばれ求められる。
「どちらが先に……?」
野暮なことを聞いてしまったのかもしれない。
律矢さんと信二郎がお互い顔を見合わせて、肩を竦めた。
「……怪我人からどうぞ」
「なんだよっその言い方。年寄りからどうぞ」
「なんだと?」
「言ったな!」
そんな場違いな二人のやりとりに思わず笑ってしまった。
「くっくっ」
笑ってから気が付いた。
こんな風に肩を揺らして笑うのはいつ振りだろう。
もう長い間心の底から笑うことなんてなかった。
「おい? 夕凪笑うなよ」
「あっすまない。だって君たちはもういい大人なのにそんなことで争うなんて」
「何を言う!これはかなり切実な問題だ!」
二人から真面目な顔で見つめられて動揺してしまった。
こんなに凛々しい二人から、こんなに求められて、俺は幸せだ。
何も恥ずかしいことはない。
愛し合っているのだから。
「じゃあ口で……受け止めるから……それじゃ駄目か」
自分から誘う様な事を言うなんて。
その声に反応した二人に再び布団の上に押し倒された。
「この向きでいいか」
あっという間に腰を掴まれ、四つん這いの姿勢を取らされてしまった。
「夕凪あんまり誘うな」
「夕凪が誘ったからだ。だがすぐにやめるから。辛かったら言えよ」
信二郎と律矢さんはこんな時でも理性を失わずに俺の躰を気遣ってくれる。
いいんだ、君たちになら何をされても。俺が渡したいんだ。俺の躰を二人に同時に……
「んっ分かった。じゃあ来て。信二郎が前に……律矢さんが後ろに…」
「あぁ」
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