京へ続く道 1

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京へ続く道 1

 眠るように意識を飛ばしてしまった夕凪の躰を、信二郎が甲斐甲斐しく暖かい布で拭いてあげていた。  手伝ってやりたがったが、少々無茶をしたのか怪我した右手がズキズキと痛んで来たので、俺は壁にもたれてその様子をじっと眺めていた。  夕凪のほっそりとした脚を持ち上げて開き、股の際どい所にまで布が入り込んで行く様子を見ていると、また躰の奥底がかっと熱くなってくる。  内股の柔らかい部分に散った鬱血は、俺がつけたのだろうか。いつの間にあんなに沢山、痛々しいほどに。自分の理性が途中から吹っ飛んでいたことを痛感する。 「おい。夕凪は怪我とかしていないか」 「あぁ大丈夫そうだ。でも疲れたのだろう」  それもそうだ。初めてだったのだから。  一度に二人の男に抱かれるなんてこと。  俺達は夕凪を壊したりしなかったであろうか、そればかりが気になっていた。  一年ぶりに抱く夕凪の躰。  少し以前より痩せてしまっていたが、抱けば花のように色づく甘美な肢体は何も変わっていなかった。禁欲的な生活を送っていた分、抱けば抱くほど乱れ咲くその様子は、ぞくっとするほど妖艶だった。  はぁ……しかしまさか恋敵の信二郎と二人がかりで夕凪を抱く日が、まさか来るとはな。 「おい、次は俺が後ろだからな」  信二郎の方も腹を括ったようだ。俺と夕凪と三人で生きていく覚悟が出来たようで、以前よりも親しみを感じる。 「ふっ、前じゃ満足できなかったか」 「そういう訳じゃないが」 「しかし腐れ縁っていうのか。これは……まさかお前と夕凪を分け合うとはな」 「はっ! それは私の台詞だ」  二人で顔を見合わせた。  いつの間に俺達は意気投合していたのか。  その先に続く言葉は、合言葉のようにただ一つ。 「京へ帰ろう」 「あぁ夕凪を連れて帰ろう」  信二郎が夕凪の背中に手をまわし真新しい浴衣を着せてあげても、起きることはなかった。    疲労困憊で眉根を寄せて眠り続ける夕凪の髪を撫でてやった。  本来ならば血を分けた弟なのだ。だが夕凪自身が躊躇する俺のもとへ障害を飛び越えてやってきてくれた。そのことが信じられなく、そこまでの覚悟でやってきてくれた人を二度と手放すまいと心に誓う。  それにしても夕凪を犯した見知らぬ男へ対する怒りは収まらない。相手を見つけたらただじゃおかない。そのことだけは未だに燻っている。  その晩は夕凪を挟むように三人で同じ部屋で眠った。京都に戻ったら、こんな風に眠るのも悪くない。そう思うと幾分楽しい気持ちになった。  俺達が部屋にずっと籠っている間、この寺の住職は一度も様子を見に来なかった。何故だか何もかもお見通しで、それでいて黙っていてくれるような気がした。  彼等はこの一年、夕凪のことを大事に守ってくれた。彼等がいなかったら夕凪と巡り逢うことがなかったかと思うとぞっとする。そんな彼等から夕凪を引きはがすのは忍びないが、それでも連れて帰りたかった。  夕凪にはやはり京が似合う。  共に京へ帰ろう。  でもきっと……ここはお前の第二の故郷になる。
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