心根 こころね  7

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心根 こころね  7

 信二郎と思わず顔を見合わせてしまった。  こんな夜分に誰だ? ここの電話を知っている人は律矢さんしかいないのに。  律矢さんは事前に予定を話してくれるので、電話をかけてきたことは一度もなかった。 「信二郎……出ないと」 「間違いかも」  二人で躊躇っていると電話は一度切れた。でもすぐにまた鳴った。どうやら間違い電話ではないようだ。 「信二郎、出てみよう」 「あぁ」  信二郎は迷っているようだったので、俺が思い切って受話器を握った。 「もしもし……」 「すみません。こちらは二条中央病院ですが、そちらに夕顔さんという方はいらっしゃいますか」 「夕顔……?」  否定しようと思ったが、胸騒ぎがした。夕顔は母の名前で、俺は一度だけ宇治の連絡先と夕顔という名を記載したことがある。  それは……あの懐かしい北鎌倉の月影寺の兄たち。湖翠さんと流水さんに、無事京都に着いたことと、住んでいる場所を知らせるために荷物を送った荷札だ。  まさか湖翠さんと流水さんに何かあったのか。 「もしもし……もしもし? 聞いていますか」 「ええ、夕顔は俺ですが、なにか」  隣で聞いていた信二郎が驚きの顔を浮かべた。夕顔と名乗ることが不思議なのか、それとも俺が自分の存在を認めたことをなのか。 「よかった。身内の方でしょうか。本日京都駅で男性が発作で倒れまして……あなたの連絡先を持っていたのです」 「えっその男性は誰ですか」 「荷札の宛先は張矢 湖翠さんと流水さんと連名になっているのですが、このいずれかの人物かと……背が高くがっちりした体格で黒髪が長く後ろで結っています」  それは流水さんのことだ!でも発作とは。北鎌倉で共に過ごした一年間で、彼が病で苦しそうにしているのなんて見たことがない。  全くの寝耳に水だ。  とにかく行かないと!  わざわざ京都に来たってことは俺を探しているのだから。 「今すぐ、行きます。詳しい住所を教えてください」  事情を察した信二郎も慌てて支度して、二人で家を飛び出した。信二郎が律矢さんにも連絡してくれ病院で、落ち合うことになった。  流水さん、待っていて下さい! 今すぐ俺が……夕凪が駆けつけるから。  流水さんは、俺にとって大事な兄のような人だ。傷ついた俺を温かく大らかに見守ってくれた人だから。  一体彼に何があったのか。  気持ちばかり焦ってしまう。
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