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しばしの別れ 3
その晩、久しぶりに律矢さんに抱かれた。
今年の初めに、律矢さんは大鷹屋を後世につなげるために結婚したので、この宇治の山荘へは足が遠のいていた。だから本当に久しぶりだ。
今日は流水さんの一周忌の法要に合わせて、来てくれたのだ。
信二郎はお寺さんを送ったまま帰ってこない。きっと……こうなることを見越して、久しぶりに祇園の友人と飲んでくるので帰りは明日の昼になると、いつになく細かく説明して出かけていった。
俺がふたりの男を選んだばかりに、気を遣わせてしまっている。
あの月影寺での日々のように……同時に抱かれ、求められることは少なくなった。
褥に誘われ、少し戸惑ってしまった。
「律矢さん……もう…俺を抱かないで下さい」
「何故そのようなことを……結婚したことを怒っているのか」
「怒っているのではなく、奥さまに申し訳ないと」
「もう黙れ、夕凪。今日は大人しく俺に抱かれていればいい。何も心配するな」
流水さんの命日という大切な日に、俺はまた一つ罪を犯す。
この人は、半分血がつながった兄だ。
結婚したばかりの他所の女性の主人だ。
抱かれてはいけない。もう……
そう思うのに、求められたら開いていく躰になってしまった。
箱庭の見える和室。
縁側近くに布団を敷かれ、そこに組み敷かれる。
横を向けば、雪見障子からよく庭が見える。
草花の揺らぎに合わせて躰を揺さぶられ、月明かりを浴びた躰に、律矢さんを迎い入れる。
全裸の素肌を隈なく味わうように舐められ……刺激で立ち上がった乳首を乳輪ごと口に大きく含まれ、吸われる。軽く甘噛みもされ、膨らみのない胸を揉まれる。愛撫は隈なく、やがて下肢へと移動して、淡い茂みを探られ、固く閉じた蕾を撫でられる。
駄目だと思う気持ちは、その頃にはもう遥か彼方へ置き去りにされている。
両足を持ち上げられ、大きく左右に開かれる。左足は律矢さんの肩に……右足は逞しい手に掴まれて……捕らわれた獲物のように、捕獲されたような姿勢も刺激でしかなくなっている。
「あぁ……駄目……うっ……」
「夕凪、夕凪……」
滑りがよくなるように、たっぷりと潤滑剤を含まされた蕾が律矢さんによって、じわじわと綻んでいく。花が咲くように蕾はゆっくりと開き、侵入を許していく。
受け留める。
この躰のすべてが律矢さんのために作りかえられるような営みだ。
俺の高まりを愛撫しながら、さっきから律矢さんが何度も俺の名を呼び続けている。
「夕凪……すなまい。俺は結局、大鷹屋を繋ぐことを取ってしまった」
「そんな……それが筋で……それでいい……のに、なぜ詫びるのです? 」
「こうやって夕凪の中に入り込むと……俺の居場所を感じるんだ。やっぱり……」
どこか悔しそな寂しそうな律矢さんだ。
今宵はいつもと様子が違うような気がして、不思議に思った。
「何か……あったのですか」
「……夕凪……すまない。嫁が妊娠した」
それは……律矢さんが結婚した時からすでに予想していたことだったが、やはり衝撃を受けた。
「……そう……ですか……あっ、うっうっ……」
その瞬間、奥まで一気に貫かれ、熱いものが内部に広がって吸い込まれていく感覚を味わった。
今、俺の躰の中に放たれた精は、永遠に実を結ぶことはない。
内股を伝い降りて来る熱い迸りに、身震いした。
酷い人だ。それでも憎めない。
信二郎と繋がるのとはまた別の……結合部の、このなんともいえないしっくりと合わさった感覚は、同じ血が流れているせいなのか。仮に俺が女でも決しては孕めない。そんな先のない営みだとは分かっていても、俺の躰はこの人を求めている。
今、身体の内部に放たれた精は、一体どこへ辿り着くのだろうか。
目を閉じると、ふと流水さんの顔が浮かんだ。
彼は魂になっても逢いに行けないのでは……彼が愛した人のもとへ。
──夕凪は幸せになれ……俺の分までも──
悔いはないのですか。
──悔しいよ。だが俺は最期に想い人に託した──
何をですか。
──いつか生まれ変わって、逢うための種を蒔いた──
魂となった流水さんとの、不思議な会話だった。
その種が誰に蒔かれたものなのか、それは育っているのか。
知りたいと思った。
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