紅をさす 3

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紅をさす 3

   俺、一体どうしたのか。  信二郎の手により女物の着物を着せられ紅をさされた。途端に甘く疼きだすこの気持ちに驚いてしまた。  女というものは皆……化粧をすると、このような高揚した心地になるのか。  信二郎の整った精悍な顔が近づき、その筆を持つ男らしい指先に心臓の鼓動がドクドクと早まってしまう。 「あっ少しはみ出てしまったな。もう一度やり直しても?」  そう聞かれても紅なんて塗ったことないので、どう答えて良いか分からず、ただ頷くことしか出来ない。 「なぁ夕凪……はみでた唇の紅……私で拭いてもいいか」 「えっどういうことだ?」   訳も分からず信二郎を見つめた途端、顎を掬われいきなり接吻された。 「んっ……んんっ? 」   驚いて後ろへ逃げるように身を引こうとしたが、後頭部に回った手がそうさせてくれない。 「んんっ!!」  次第に深くなる口づけに、頭が真っ白になっていく。  俺……どうして男に接吻されている!?  あぁ……だが嫌じゃない。今の俺が女装姿だからなのか。こんな化粧をしたからか。男同士でこんなのおかしいよな。頭にはいろいろな考えが浮かぶが、深まっていく甘い口づけに躰の力が抜けて、もう抗う気持ちを失いされるがままになってしまった。  この着物を着た途端、俺はおかしくなってしまったのか。いや最初から信二郎が持ってきたこの着物を着てみたかったかもしれない。そして、もしかしたら、こうなることを心の奥底で密かに望んでいたのかもしれない。  俺はいつからこんな気持ちを持っていたのか。こんな気持ちが自分の中にあったなんて信じられない。  きっかけは……そう、信二郎の手で赤い紅をさされた時だ。  赤い色に染められ深い口づけを交わし、一体どこまで堕ちていくのか。 「抗わないんだな……」  問い詰めるように見つめられて、無言で頷いてしまった。 「なら……着物が皺になるから、もう脱がせてもいいか」  紅をさされた瞬間から、まるで魔法にかかったように、お前に身を任せて行く自分が怖い。  品行方正に生きて来たはずの俺の理性が、どんどん剥がれ落ちていく。 ****  震えながらコクリと頷く夕凪の帯に手をかける。 「信二郎……あっあの、その皺になるから脱ぐだけだよな?」     はぁ……全くどこまでも天然な人だ。だが私の接吻を拒まなかったということは、この先を期待しているのか。 「夕凪は、それでいいのか」 「えっ!」  もうこれ以上赤くなれないというほど顔を染めて狼狽え、私の胸に手をつき離れようとするので、その指を恋人繋ぎにして絡みとった。 「私に任せてみろ」 「まっ任せるって……何を!?」  可愛い口をもう一度塞ぎ、今度は先ほどより深い口づけを落としてやる。唇を割って舌を挿しこみ、逃げ惑う可愛い舌を探し絡めとってやる。 「はっ……んんっ……」  息継ぎのタイミングが分からないのか、苦し気に眉を寄せ肩で息をしている。そんな夕凪をきゅっと片手で抱きかかえ、抜けそうな腰を支えてやる。口を離すと、赤く潤んだ眼ではぁはぁと肩で息をしている。 「お前……なんで……こんな……」 「しっ黙って。外に聞こえてしまうよ」 「だがっ」  夕凪の帯をするりと緩め一気に外し、下へばさりと落とす。そして着物の袷に手をかける。 そのまま一気に脱がそうかと思ったが、せっかくの美しい夕凪の女装姿が名残惜しく躊躇してしまった。 「どうして……信二郎はこんなことを?」 「夕凪は嫌か。嫌ならやめるが」 「……」  唇を悔しそうにキュッと噛み締める姿にもそそられる。 「もっと触れてもいいか」 「うっ……俺、どうしたらいいかわからない。こんな事、知らないっ」 「ふっ」  そっと夕凪の股間に手を滑らせると、小振りだが形のよいものが硬さをもっていた。 「ずるいよ……俺をこんなに高ぶらせて。こんな姿で……こんな場所で!」  夕凪が悔しそうにドンドンと私の胸を叩く。本気で抵抗ているわけでないのが分かる弱々しさ。そんな事をしても煽るだけなのに。 「心配するな、私に委ねていればいい」
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