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隔てられて 5
「夕凪……夕凪」
遠くから声がする。あぁそうか、それが俺の名前だったな。
この山奥の山荘に連れて来られて一体何日経ったのだろう。月日が過ぎゆく感覚がなくなり、朝から夜までこの部屋の窓辺に座って外を眺めていた。
「あっ……お帰りなさい」
声をかける相手は、整った男らしい顔を綻ばせて近寄ってくる。
「……律矢さん」
「夕凪今日は何をしていた?」
「何も……外を見ていただけです」
「そうか……さぁこちらへおいで」
手を引かれてそのまま寝室へ連れて行かれる。その後はいつものように布団の上で生まれたままの姿にされ躰を開くだけ。差し出しても差し出しても律矢さんには足りないのか、執拗に朝まで貪られることにも、もう慣れた。
どうせ誰も俺のことなんて待っていない。
大事なものが何かも分からなくなった俺だから、これが俺に等しい生き方なのではとさえ思ってくる。男という性を持ちながら律矢さんという男に毎日躰を差し出す行為が浅ましいと最初は思ったが、もう感覚も麻痺してしまったようだ。
どんなに食べられても、この己の躰は消えることなく生き続けているのだから。
「夕凪……なぁ頼むよ。俺のことをちゃんと見てくれよ。躰はこんなに濡れて感じているじゃないか…」
「……」
俺の上にのしかかっている律矢さんが愛しそうに俺の頬や髪に口づけを落としながら、囁いてくる。確かに律矢さんはどこまでも優しく俺を抱くので、彼に奪われた躰はいつしか愛撫に反応し濡れて悶えていく。それに自分の意志が伴っているのかさえ分からない。
あぁここはまるで迷宮のようだ。
「人形を抱くようでつまらないよ。なぁ夕凪……君も日中少し何かした方がいいな」
「……俺は何もしたいことなんてないです」
「そうかな。明日は俺も一緒に一日ここにいられるから一緒に考えてみよう」
「そんなこと必要ないのに……このままでいいのに」
最初だけは乱暴に強引に俺を奪ったが、律矢さんはそれ以降、暴力を振るうことも傷つけることもなかった。
ひたすらに俺の躰に溺れているが、律矢さんはもしかして俺を愛しているのだろうか。
どこか客観的にそう思うだけだった。
俺には明日はもう来ない。あの未来に希望に溢れていたあの日々は過ぎ去った遠い過去。
「あっ……ううっ……うっ…」
律矢さんの動きが激しくなってくると、もう何も考えられなくなってくる。考えるのも疲れるだけだ。求められたことに応じていけば楽だ。このまま。ここで……
律矢さんの手によって脚を大きく開かれ躰を深く突き上げられるたびに、何か大切なものが零れ落ちていくような感覚になる。
「うっ……う……」
「夕凪こっちを見てくれ……お願いだ。俺を見てくれよ! 」
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