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さざ波 4
それは激しい挿入だった。
ぐっぐっと最奥まで押しこめるように、信二郎のものが俺を満たしていく。
その度に溢れ出る白濁の液体が、俺の内股をヌルヌルと汚していく。もう何時間経ったのか……終わりのない行為に、身震いがして信二郎に懇願してしまう…
「信二郎……もう辛い……もう嫌だ、もう許してくれ」
「まだだ……まだ駄目だ」
それでも止まることなく、まるで何かに憑依されたように信二郎が、俺を無我夢中で抱いてくる。信二郎のものが大きさを更に増しながら、俺の内側の襞をどんどん押し広げていく。
投げられた石によって、水面に波紋がじわじわと広がっていくように……信二郎のもので貫かれた躰が信二郎に馴染んでいく。
「ああ……あ……うっ…んっ」
泣くものかと顔を背け横を向くと、激しく乱れる己の様が縁側へ続く窓硝子にぼんやりと映り込んでいてはっとしてしまう。
これが俺なのか……腰紐だけが残って激しく乱れた着物。肌を丸見えにさせ四つん這いになり後ろから攻められて、もがくように敷布を必死に掴んで堪えている姿。
そんな影にぞくっとした。
「あうっ!」
「夕凪、こっちを向けよ」
最奥に放たれたものが、躰の内側にドクリと潜り込んでくる感覚に身震すると、背後から顎を掴まれ、無理矢理に信二郎の方を向かされて接吻をされる。
「はうっ……ん…もう出ない」
「まだ出来るはずだ。夕凪……全部吐き出せ。私以外のものに触れられた痕跡を」
「いやだ……もう……辛い」
涙と涎と汗と…自分が出したもので干からびていくような錯覚を覚える。それなのに信二郎の手がまた前に伸びて来て息も整わない状態で、次が始まる。
長い長い夜だ。
****
「んっ……眩しい」
明け方目を覚ますと、すべて綺麗に処理されて真新しい浴衣を着せられていた。
「夕凪、目覚めたか」
信二郎が俺に添い寝してくれていた。片肘をついた信二郎が精悍な端正な顔を綻ばせ微笑んでくるので、女子のように何故か恥ずかしくなり戸惑ってしまった。
「信二郎……俺は……」
「夕凪、戻って来てくれてありがとう。嬉しくてついあんなに抱いてしまって、すまなかったな。今、躰がきついだろう」
昨夜のことが、きつくないといったら嘘になるのか。律矢さんとの山荘に囚われて1日中抱かれていた日々を思い出してしまい困惑した。あの時は朝食を食べている傍から押し倒され、庭先でも押し倒され……激しく辛い扱いを受けた。でも同時にあの草花が自然のままに咲く庭で頬をかすめていった風の心地良さや薫としての律矢さんの腕前………律矢さんなりの愛情の片鱗を確かに受け止めていた。
それを懐かしくもまた触れたいとも思ってしまう。
本当になんということだ。俺はもう一人では生きていけなくなったのだろうか。こんな風に女みたいに抱かれることに慣れ切ってしまい、一体どうなっていくのだ。
無言になってしまった俺の頬を、信二郎がそっと撫でてくる。
「ずっと探していたんだ。今までどこにいたんだ? 夕凪、正直に話してくれよ」
「……」
果たして信二郎に律矢さんとのことを話しても良いのだろうか。判断しかねるので返事に窮してしまう。
「信二郎……俺は……その…お前の記憶を長い間、失っていた」
「あぁ……そのようだな、だが何故一体そのようなことになったのだ? 何か原因があるはずだ? 」
「……原因? 」
あぁやっぱり律矢さんのことを話すわけにはいかない。あの日下働き用の風呂で律矢さんに突然襲われた衝撃で……なんて……告げて何になる。
信二郎が律矢さんに何をするか分からない。律矢さんに何かあってはと心配になる。だが同時に、俺は信二郎との思い出を穢されるのが辛く記憶を封じていたことも思い出した。
本当にどっちつかずだ。どちらかを選ぶことなんて出来そうにもない。
律矢さんも信二郎も、どちらも最初は俺を強引に抱いたが、俺を深く愛して求めてくれたのだ。それに気が付いてしまった。
「原因は分からない。俺はこれからどうしたらいいのかも……分からない」
そんな風に迷う心の言葉が、静かに自然と口から零れていた。
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